第24話 中がダメなら外があるじゃない(意味深)

「2人っきりって……隣には紫月しづきや、みつもいるんですよね……?」

 様相を変え、表情が明らかに先程までとは違い“闇”しか感じられない墨谷すみや先輩にビビりながらも、俺は何とか言葉を返す。


「でも今この空間にいるのは私と桃乃もものくんだけ。この意味、分かるよね?」

 目を細め、まるで獲物を見つけたかのように俺を見つめる墨谷先輩。

 その目だけでわかった。

「ちょっと、分かりたくないかも……」


“早く逃げなきゃ……!”と。

「なら桃乃くんにしっかりと教えてあげなきゃね、うふふっ」

 もはや、エッチな夢を見るという副作用のある睡眠スプレーを吸わされたと言う紫月や蜜を気にする余裕なんて無かった。


“とにかく逃げなきゃ!”

 ただひたすらにこのことばかり考えていた。

 すると、俺に揺さぶりをかけるかのように墨谷先輩はこんなことを言い出した。

「さぁて、何からしようかなぁ〜?ねぇ、桃乃くんは何されたい?妹さんや碧海あおみさんに隠してる感情を私にぶつけてもいいのよぉ?」

「そんなのないですからっ!!!」

 思わず俺は強く否定する。

 脳裏に一瞬だけ過ぎってしまった2人への劣情を振り払うかのように強く……。


 しかし、これ以上の揺さぶりが来ては耐えられる自信が無く、俺は墨谷先輩と2人っきりのこの部屋から出ようとドアノブに手をかけた。

 だが、どう言ったわけかドアノブを回せど回せどドアが開く気配を全く感じられないのだ。

「あ、逃げようとしても無駄よ?私の意思以外で内側からは開けられないから」

「えっ!?あっ、ほんとだ。なにこれ凄い……」

 再び現れた墨谷先輩のオカルト技術に俺はもはや関心するしか無かった。

 その俺の声に味を締めたのか

「ふふふ。そうでしょう。凄いでしょう!もっと褒めていいのよ?というか褒めて!」

 とまるでおねだりする犬のように目をキラキラと輝かせてドアの近くにいる俺に近づいてくる墨谷先輩。


 すると突然墨谷先輩が動きを止め、

「……あれ?ちょっと待って?」

 眉をひそめる。

 俺は、急に“闇”な雰囲気が消え去った墨谷先輩の様子が気になり声をかけることにした。

「あの……どうしました?」

「……嫌な予感がするわ。ちょっとここいらで退散を」

「えっ、先輩?一体それはどういう」

 俺は一瞬先輩が何を言ってるのかわからなかった。


 が、すぐさまその理由が明らかになった。

「させませんよ?墨谷先輩」

「あーあ……。間に合わなかったかー」

 勢いよく部屋のドアが開けられたと同時に声高らかに、聞き馴染みのある声が部屋中に響いた。

「蜜!無事だったんだな!」

 やや不機嫌そうに仁王立ちしている高圧的な、いつもの様子の妹の様子に俺は安心した。


 しかし、その俺の安心もつかの間

「無事なわけないでしょ……。あんな夢見せられて、正気でいるの大変だったんだから……っ!」

 俺の声を聞くと更に機嫌を悪くする。

「一体どんな夢見てたんだよ……」

 墨谷先輩特製の催眠スプレーの副作用である、“エッチな夢を見る”というものがどう言った程度なのか今更ながら気になるところである。


 すると、それが態度にでも出ていたのだろうか

「知りたい?後でこっそり教えようか?妹さんがどんな夢を見てたのか」

 墨谷先輩が俺に耳打ちしてこようとしてきた。

「余計なことしないでくださいっ!!!」

 余程知られたくないのだろうか、蜜は俺と墨谷先輩を切り離すかのように間に踏み込む。


 蜜の夢の内容をなんで墨谷先輩が知っているのかとも一瞬思ったが

“まぁ、墨谷先輩だし何が出来てもおかしくないよな”

 と言った具合にもはや不思議にすら思わなくなっていた。


 それよりも

「というか、ここいらで退散するんじゃ無かったんですか?そんなのんびりしてていいんですか?」

 先程から墨谷先輩が余裕そうにしている事の方が気になった。


 まさか、ここから逃げ出せる手段でも持っているのだろうと身構えていると、彼女は小さくこう呟いた。

「あっ……」


 どうやら、ただただ退散するタイミングを逃しただけだったようだ。



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