第23話 2人っきりだね

 学園の女神様・紫月しづきと俺の妹・蜜の修羅場に耐えきれなくなり俺は気絶した。


 気絶する手前に俺の異変に気づいた2人が心配そうに俺に駆け寄ってきたのに、俺は一抹いちまつの安心感を覚えてそのまま意識を失った。


 そしてしばらくして目を覚ますのだが……

「あの、どうして墨谷先輩が俺の部屋にいるんですかね?というかどうやって入ったんですか……」

 いきなり目の前に現れたのは、紫月や蜜では無く墨谷すみや先輩だったのである。


 と言うよりなんなら、膝枕されていた。

 彼女の太ももは思っていたよりも柔らかく、程よく頭を包み込む感じが心地よかったりもした。

 が、それでもやはりあの墨谷先輩なので俺は慌てて飛び起きた。


 膝枕されたまま起きたばっかの時はもしかして墨谷先輩の部屋かも、とも考えたが視線の端にフィギュアの入った棚があるが見えすぐさまここが俺の部屋だと確信した。

 だとしたら、なんで俺の部屋に墨谷先輩が!?となるのはごく自然なことだろう。


 そんなことを考えてると、墨谷先輩は指をクルクルと回し空中に円を描き始めた。

「えっと、魔法陣を何やかんやしてここにワープしてしたんだけど?」

「え?なんで!?」

“どうやって!?”なんて言うのは墨谷先輩に聞くだけ無駄だと思い、俺はすぐさま理由の方を求めた。

 すると、墨谷先輩は顔を赤らめ目を伏せる。

 噂で聞く墨谷先輩とは真逆の様子にドキドキしていると

「なんで、って言われたらそうねぇ。あなたをもっと近くで感じたくなっちゃったからかな」

 こんなことを墨谷先輩が言い出してきたのだ。


 例え学園の危険人物・墨谷 優那ゆな先輩だとしても、目の前でこんなことをされてしまえば、オタクで童貞な俺には十分すぎるくらいの殺傷能力である。


 つまり、何が言いたいかと言うと

「……そう言われると悪い気もしなくも」

 満更でもなかったりする、ということだ。

 墨谷先輩でもこんな表情するのか、そう考えていたのだが

「もっと正確に言えば、君の唾液とか体液とか欲しくなっちゃったのよねぇ」

「あっ、すいませんごめんなさいすぐ出てってください」

 やはり気の所為せいだったようだ。

 やっぱりこの人はどうあっても危険人物・墨谷 優那先生だと思った瞬間である。


「ほらね、そう言うと思った〜。だから、こうやって隙をついて現れたんじゃない」

 と、俺の反応は予想出来ていたようでかなり落ち着いていた。


 ふとここで俺はあることに気がついた。

「えっと、ちなみになんですけど2人はどこですか……?」

 ついさっきまで、ここで修羅場を繰り広げていた紫月と蜜が居ないことに。

 名指しはしてなかったが、誰のことを言っているのかわかったのだろう。

「あぁ、妹さんと碧海さんね。向こうで寝てもらってるわ」

 そう言う墨谷先輩。


 普通はここで安心するものなのだろうが、

「……変なことしてませんよね?」

 相手が相手な為に、俺は墨谷先輩に疑いの目を向ける。

 すると、墨谷先輩はさも当然のような態度でこう言った。

「してないわよ。ちょーーっと、特性の睡眠スプレーを吸い込んでもらっただけ」

 と。


 机の上に見覚えの無いピンク色のプラスチックスプレー。

 ラベルにはハートマークと『 Z』が3つ並べて書かれてあった。

「それ本当に大丈夫なんですか!?」

 何一つ安心できる要素が見当たらなった。


 そして墨谷先輩は付け加えるようにこう言うのであった。

「大丈夫大丈夫。副作用で眠ってる間、エッチな夢を見るだけだから」

「全然大丈夫じゃない……」

 一体何の目的で先輩がこの部屋に来たのかは、二の次でありとにかく2人が本当に無事なのか、それだけが気がかりだった。


 例え開発者本人から大丈夫と言われても、だ。



 すると、一頻り俺からの質問が終わったと思ったのだろう。

 墨谷先輩が俺の手をぎゅっと握る。

 先程の太ももとは違い心做しか、彼女の手がカサついていた。


 オカルト研での実験か何かの影響なのだろうか、と彼女が実験している様子を想像していると

「ふふふ……2人っきりだけど、何しよっか?うっふふ……」


 突然、墨谷先輩の様相が変わったのであった。




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