第3話:この素晴らしい偽善者に祝福を(後編)


はるか達は、村へ続く畑道を歩いた。収穫前の畑は一面に作物を実らせ、素朴な村にわずかな色を与えている。

時折、作業中の村人が此方に気づいて手を振っている。日本で暮らしていた時と違う人の温かさを感じて、心地の良い空気が悠を迎えてくれる。

「村の人、みんな優しいんだな」

都会とはかけ離れた日常に、悠は思わず言葉を漏らす。

「ええ、何もないなりに助け合って暮らしてますから…」

まるで自分のように微笑むアルテシアだったが、何処か含み気な話し方だ。出会って間もない悠は尋ねるべきか考えたが、轍を踏む訳にもいかず相槌を返すだけだった。


村は質素だったが、住人達は活気に溢れていた。不思議がってアルテシアは住人に理由を聞いた。

「随分賑やかですが、どうされましたの?」

アルテシアが訪ねた男は、どうやら昼間から酒を開けたようで随分と気が大きい。

「これはこれは、ローランド様の所のお嬢様じゃあないですか!見て分からないのですか?祭りですよ祭り」

男の話しによると、収穫したトウモロコシをある業者が定価の倍で買取ったらしい。農民なら浮かれてやまないに決まっている。村中右も左もお祭り状態だ。

アルテシアをお嬢様と呼んだ男は、気も大きいせいか悠のことも遠慮なく訪ねた。

「それにしても、お嬢様が男連れとは珍しい!やっぱり年頃ですねぇ」

「なっ、なななっ…!!私たち、そう言う破廉恥な関係ではっ!!」

男のオヤジ臭いノリを真に受け、彼女の白い肌は真っ赤に茹で上がってしまった。彼女があたふたとしている間に、尾ヒレがつくこともある。悠は気だるげに助け舟を流した。

「あー…それより、ここのトウモロコシってやっぱり美味いんですか」

それを聞いて男はいつになく真剣な顔つきへと変わった。やはり酔っていても、男の農家の血は騒ぐのだろう。

「いいこと聞いたな兄ちゃん。黙って食えば、コイツが分かるってもんよ」

本物は多くを語らない。彼が差し出したトウモロコシはどっさりとヒゲが生えており、中の身が弾けんばかりに詰まっていた。彼が目を覚ました時に嗅いだ匂いがする。大粒の身1つに、どれだけの糖度が詰まっているのか…悠は堪らずカブりついた。

「美味い…」

噛んだ瞬間にエキスが溢れた。茹でる前からこうも瑞々しいとは思わなかった。きっと砂糖を使っていないと言われても、信じない自信がある。それ程までに、甘いトウモロコシだった。

「ふふ、今笑いましたね。ハルカ」

自然と緩んだ顔を指摘され、悠は気恥しそうに顔を逸らした。

「わ、笑ってない…」

頭の泥は少しづつだが、彼女達の手で掬われている気がした。




──────────

あとがき

・あとがき

27日投下予定と言ったな。あれは嘘だ。

今回も手に取って頂き、ありがとうございます。いい歳こいて黒歴史爆誕した以上、完結までは運びたいと思っています。

バスケット完全に空気でしたね。オッサンと併せてもう二度と出てきません。

次回は本当に27日投下予定です。

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