第8話 剣聖が剣だけの筈がない。

 時は同じく場所は異なり、機械の竜とバイクに乗ったカラスの戦場。

 縦横無尽に駆け回るバイクを竜の一撃が止めた、その時に時間は戻る。

 

 「オイオイオイ!一位のお出ましとはなァッ!!」

 「なに、は放っておくと酷いことになるからね」

 呼吸の様に蒸気をふかす戦車の竜はBLAYを象徴する。

 彼の機体は全てドラゴンモチーフである。全五車大戦においてドラゴンモチーフの機体しか作らず、それでいて3回の優勝を果たしているため、【竜激王】と言われるのだ。

 

 廃人と呼ばれようと重課金兵と呼ばれようと楽しいゲームで一番になりたいのだ。ただそれだけの精神でフィールドランキング一位にまで上り詰めたのだ。

 「はっは!潰してやろうじゃあねェええかァ!!」

 「ふふ、敗けないとも」

 

 ガシャガシャと音を立て、展開するは機械の翼。まるで羽毛の様に開かれたそれは、まさしく竜の翼と言わんばかりにごつごつとしている。それはただの鋼などではない。それはただのイラストや柄ではない。

 まるで爬虫類系の鱗の様な具合にはなっているものの、それが何かそういう素材でできているのではない。

 それは竜でいうなれば爪であり、牙であり、息吹ブレスである。

 

 「展開、〔百弾幕〕」

 

 ごつごつとした出っ張りの全てが弾頭である。それは轟音を響かせて撃ちだされる。まさしく百の弾幕と言わんばかりの弾数。

 四方八方から人と同じぐらいの大きさの爆裂弾が襲い掛かってくる。雨だとでも言わんばかりに無作為に。最重量級の利点である最大武装量を全面に押し出した全体殲滅型のコンセプト機体。単純なスペックで圧し潰す、という系統の完成形。

 

 「どう出る?」

 単純な疑問であり、本来大群に使うべき能力を個人に切っただけの見返りがあるのかという問い。

 この〔百弾幕〕には極めて大きな制約がある。冷却装置付きですらオーバーヒートし、一時間のクールダウンを要するのだ。

 

 だからこそ、ランカーの牽制に使うのだ。

 

 「ハァ?舐めてんのか?」

 

 カラスは不機嫌そうにつぶやく。

 バイクのアクセルが踏み込まれる。

 そのまま、真っすぐ突っ込んだ。

 その速度、何と秒速332m。亜音速というべき速さ。

 「直線でぇえええええ、俺に追いつけるかぁああああああボケェエエエエエエエエエエエエエエエエ」

 物理法則がしっかりしているがゆえに喋るごとに風が口に入り、千切れんばかりに口を広げられる。

 だがこのゲーム不思議なことに、プレイヤーの耐久値は無限である。どれだけ酷使しようと中の人が辛い感覚を味わうだけで特段なんの問題もないのだ。

 

 因みに、そういうことについてジョーに求める常識は存在しない。こいつ、別のゲームでブレイクダンスと釣りを同時にこなす変態だから。

 

 全力でeスポーツに注力すれば全国に行けるとまで言われた変態、ジョーにとっては爆速で進むバイクの極めて細かな調整などお手の物。

 プレイ時間は清く正しい一日一時間ぐらいというものでありながらトップに食い込み、イベントでは常に上位に名を連ねる男の得意技だ。

 

 バイクは進む。

 どんどん進む。

 BLAYの放つ弾丸の尽くを潜り抜け、BLAYの突き出したダメージ装甲をドリフトするかのようなジャンプで避け、まるで踊るかのような動きで回り込み、そして!



 ――――そのまま、駆け抜けた。

 

 「ドン亀にぃいいいいい!追いつけるかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 「・・・へ?」

 

 ―――はーーはっははっはっははっははっははっはっはっははっはッ!

 

 まるで馬鹿にするかのような笑い声が響く。

 

 剣聖が剣だけの筈がない。時には逃げるコマンドを連打する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒いサンタと五車大戦 青条 柊 @aqi-ron

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ