第6話 理想の転生②

気が付くと僕は天蓋付てんがいつきベッドの中で目を覚ました。

どうやらこれが新しい転生先のようだ。

中世ヨーロッパ風の天井の高い、そして少しカビ臭い部屋だ。

ベッドの中からは天板の広い木製のがっしりとした机が見える。

さしずめここは寝室兼書斎しんしつけんしょさいといったところか。

ベッドの横には古めかしい鏡台きょうだいとクローゼットもある。

早速起きてこの世界を探検することにしよう。


僕はクローゼットにかかったいくつかの服の中から青味がかった刺繍ししゅうの入った服を身にまとった。

鏡を見るとそこそこ様になっている気はするのだが顔が前世、いや厳密には前々世と同じな為、そこは建物や調度品とのギャップを感じる。

例えるなら出来の良いコスプレと言ったところか。

見た目についてもリクエストすべきだったか?

いや、でもあの似非えせ神のことだ。

鼻を高く、なんて言ったらピノキオみたいにされかねん。

これはこれで良しとしよう。

ベッドの足元にあった履き慣れないブーツとしばらく格闘した後、部屋を出た。


部屋を出ると廊下が左右に広がっており、等間隔に同じような木の扉が並んでいる。

その左右に広がる廊下の中心、寝室から見て右手に下へ降りる階段があるようだ。

この建物の外に出るべく階段に向かう。

階段は大人が優に三人は並んで上り下りできるくらいの幅で石造りとなっており、上にじゅうたんが敷かれいる。

履き慣れない革底のブーツでも滑ることはなさそうだ。

とはいえじゅうたんで段差が見えづらくなっているので慎重に下る。

下りきると正面の両開きの扉が開け放たれており、そこから外に出られそうなことがわかった。

僕は試してみたいことがあり、外への歩みを早める。


建物、城と呼んでいいだろう、の外に出ると建物の周りに堀がめぐっており正面には草原が広がっている。

僕は前回の転生で使う機会のなかった魔法を試してみたかったのだ。

草原に歩みを進め点在する樹の一つに狙いを定め右手を振り下ろしながらこう叫んだ。

『ファイヤー!』

・・

・・・


何も起きない。

発音が悪かったのかもしれない。

気を取り直してネイティブっぽく、声のトーンを1オクターブ落として言い直してみる。

『フ、ファイア』

・・・


またしても何も起きない。

とちったから?

もう一度だけ、身も心も欧米人になりきって叫ぶ。

『Fire!』

完璧だ!発音は。

・・・


ひょっとして英語じゃダメなのか?

今度はアニメでかじっただけのドイツ語で発声してみる。

『ファイエル!!』

・・・


『やっぱりダメか。

 この世界じゃ火の玉ひとつ出せやしな・・・。』

そうつぶやいた瞬間、てのひらに熱いものを感じた。

あわててその掌の中の熱いものを振りほどく。

掌から放たれたファイヤーボール、もとい火の玉は正面の樹に命中した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る