第44話・ガンブッパとツヴァイヘンダー
「ねえ、あき……ブッパ、もうこんなのやめようよ……」
2組の合同パーティー計28名を焼却して一息ついていると、ツヴァイヘンダーが無表情で愚痴を言い始めた。
「またその話? ヴァイ君ほどの才能持ちはそうそういないんだから、コンビ解散なんてありえないよ」
「僕に才能なんてないよ! これっぽっちも!」
「それが唯一無二の才能なんだってば」
一言で表すなら、ツヴァイヘンダーは【ヘタクソ】である。
ヘスペリデスを始めて2年、しかも称号持ちのガンブッパを共闘しているにも関わらず、まともに攻撃を命中させるのも困難極まりない。
2年もやって戦闘機動もロクにできないとあっては、もはや才能としかいいようがないだろう。
究極のヘタクソである。
「いつまで経っても、ちっともうまくならないのがツヴァ君の才能なんだよ。私もツヴァ君と一緒じゃないと置きレーザーなんてできないし」
2年間まったく上達しない、よく言えば変化しないツヴァイヘンダーだからこそ、ガンブッパも安心して罠を張れるのだ。
これが不確定要素の多い他のプレイヤーなら、敵味方の区別なく一網打尽にするしかなくなってしまう。
究極のヘタクソを相棒にしてこその引力光線であった。
「それにツヴァ君のコーデは可愛いから、もっと作って欲しいのよ」
「もう100を超えてるよ!」
ガンブッパとツヴァイヘンダーはゲーム内結婚を交わした仲である。
なぜならヘスペリデスは、夫婦間に限りコーデ用のパーツやアクセサリーを共有できるから。
「こっちは本当に才能あるんだから自信持ちなさい」
いまガンブッパが着用しているのも、ツヴァイヘンダーが多数のアクセサリーでスクラッチビルドした作品の1つである。
作ったコーデは100以上、いつでも使えるようにマイコーデ登録しているのが28種。
それらを定期的に着せ替えて称号持ちの正体を
「ツヴァ君が私のコーデを組んで、2人でみんなに見せびらかすの」
「ろくに見せる間もなく消滅させるくせに!」
「そこも含めてのパーティー【引力光線】でしょ? なんたってツヴァ君のコーデは光る引力を持ってるんだから!」
作ったコーデを見せるために組んだパーティーだったのに、いつの間にか観客を焼却するようになってしまった。
そしてパーティー名を知ったプレイヤーたちが何を勘違いしたのか、いや見たままを広めた結果なのだが、次第に引力光線の意味合いが変わってしまったのである。
ツヴァイヘンダーが作ったコーデの魅力が、実のところは素人丸出しプレイの引力が敵を
この2人が
「おかげでツヴァ君も修羅になれたじゃん」
「ちっとも嬉しくないよ!」
実力が
戦場をフラフラしているうちに『あれは敵を射線上に誘導するヘタクソのフリ』と思われて、気がついたらネット掲示板で修羅認定されてしまったのだ。
「それに、さっき1人倒したでしょ?」
「それは偶然」
相手が勝手に同士討ちで自爆しただけである。
「これでまた変な噂が流れちゃうよ……」
ツヴァイヘンダーは訳あって目立つのが嫌いなのだ。
目立たないために、動画配信をしない初心者狩りPKパーティーを狙っているのに、それでも噂が立ってしまうのは、すべて目の前にいる称号持ちのせいである。
「別にいいでしょ? もうすぐ誕生日なんだから」
リアルでは小学6年生のツヴァイヘンダーは、本来ならR12指定のヘスペリデスをプレイできる年齢ではなく、父親のゲーム機とアカウントでログインしているのだ。
「それはそうだけど……」
「それより魔王討伐イベント始まってるけど、これから行かない?」
「やだ! 誕生日まで目立ちたくない!」
あと数週間で満12才、年齢制限が解禁される。
「それだとイベント期間終わっちゃうよ?」
「あんな巨人と戦いたくないよ!」
こちらが本音であった。
ガンブッパが対超大型魔獣用大火力レーザー発振器の達人であるにもかかわらず、パーティー【引力光線】は対魔獣勢ではない。
ただでさえ大型魔獣を相手にした経験が皆無なのに、いきなりラスボス級は無茶すぎる。
「そっか~、わかったわかった。だったら魔王ライブ行こうよ! あれって結構人気あるみたいだし、面白かったら録画しよう!」
「うん……それなら行く」
「魔王がビキニだから?」
「そうだよ」
「エッチ♡」
「違うよ!」
ツヴァイヘンダーは別に下心でビキニに興味がある訳ではない。
ビキニの他に何も着ていないので、コーデを組んで着せたくなる、寝ている幼児に毛布をかけてあげたくなる的な感覚なのだ(とツヴァイヘンダ―は主張している)。
「そうと決まればエリア移動ね。街に行かないと……」
市街地に出れば超空間ゲート(要課金)で長距離移動が可能だ。
「……なんか気配しない?」
ガンブッパは超羅刹級の例に
「また来たの⁉ もう疲れちゃったよ!」
2年戦っても一向に上達しないツヴァイヘンダーは、長時間の戦闘が苦手なのだ。
「はいはい。あれ倒したらログアウトで街に帰るから」
フィールド上でログアウトすると、手に入れた報酬その他が消えるルールだが、PKで得るモノは元から存在しないので、いつ抜けても問題ない。
そして再ログインでチェックポイントの宿屋に出れば瞬間移動の完成である。
「ざっと6人ってとこね……その前にコーデ変えない?」
さっき倒した合同パーティーが生配信していた可能性は捨てきれない。
その動画で引力光線の正体がバレる可能性があるため、変装は欠かせないのだ。
「Bの16」
いつでも瞬時に着せ替えできるマイコーデの登録番号である。
「はいはい」
ツヴァイヘンダーの指示に従ってエプロンドレスにコーデ変更するガンブッパ。
大火力レーザー【モンスター】の偽装は大型バリスタである。
「さあ何喰わぬ顔でうろつくわよ」
「いつも通りだね」
素人丸出しでフラフラ歩くツヴァイヘンダー。
「……そうそう。これがいいのよ」
だが、ガンブッパは知っている。
このフラフラした歩調こそが、ツヴァイヘンダーの持つ異様な回避力の秘密なのだと。
例えるなら方術や陰陽道における魔除けの
他人には、ただのヘタクソにしか見えず、本人にも自覚がないのだが、回避だけなら変態的な天性のセンスを持っている。
ただしヘタクソには違いなく、ツヴァイヘンダーはそれゆえに【究極のヘタクソ】と呼ばれるのであった。
2年前にこれを見出したガンブッパは、その秘密を墓まで持って行くつもりである。
「ちゃっちゃと倒してライブ行くよ~!」
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