第12話 わたしと猫のミカン

これは確か、わたしが小学五年生に上がったばかりか、上がる前かの出来事だったはずです。

母が突然やってきたと思えば、女の子のラグドールと、男の子のスコティッシュフォールドの猫二匹を我が家に置いていったのだ。


理由をきけば、母の住む家にいる未去勢だったラグドールの男の子と、未避妊ラグドールの女の子との赤ちゃんを望んでいたらしく、女の子猫のが子猫だったので年齢的にそろそろ顔合わせても良いだろうとご対面させてみたら・・・・・・驚きの結果に。

女の子のラグドールは旦那になる予定のオスのラグドールに猫パンチと威嚇を繰り返し、全く結ばれる気配がなさそうで、これでは互いにストレスになってしまうからと引き離すために我が家に連れてきたんだと言う。


それなら、なぜ男の子のスコティッシュフォールドも一緒に連れてきたのか。


「この二匹、とっても仲良しだから、離れ離れにさせたら可哀想と思って」


そりゃあそうですよね。

母はほとんどパソコンに向かいっぱなしか、疲れたら眠ってしまいます。大して遊んでくれやしない。

だとしたら同じ部屋で常に二匹でいたこの子達の気持ちを思えば、遊び相手はお互いしかいないわけで、仲良くなるのも当然の結果だと思いました。


スコティッシュフォールドの男の子の名前はレア。

ラグドールの女の子の名前はミカン。


うちのハイツは元より犬の飼育は可でしたが、猫の飼育は不可。けれど隠して猫も飼育しており、ワンコ(ミニチュアダックスフンドのモカ)は神奈川に戻ってきた際、預けてたブリーダーさんの元へしっかり迎えに行って、無事に再び一緒に暮らしていました。

だからって猫が増えるのは・・・・・・と少しゴネた祖母でしたが、祖母もたまに母とその彼氏の二人の家に訪れていて、その惨状を目の当たりにしていたが故に渋々迎え入れる事を許してくれました。


幸い、先住猫として居たアメリカンショートヘアのヒナタ(この子は拾い? 猫。玄関を開けたら外で待ち構えており、扉が空いた瞬間に勝手に入ってきてしまった)と仲良くすることができて、モカは元より争いを好まない子だったから、新入りの二匹とも自然に打ち解けていました。

なにより三匹とも猫にしてはおとなしい部類だったので、下の階の人にもバレずに平和に暮らすことができたという。


レアとミカンがやってきてから、わたしは母と彼氏の家に呼ばれることは圧倒的に少なくなり、比較的また平和な日常が。


と思ったのに、平和なんて許さない、と言わんばかりに急展開が襲いかかってきました。


まだ迎えてそんな経たないうちに、ミカンの様子が突如おかしくなってしまい、急いで病院に担ぎこんだのです。


「申し訳ありません。この子は、もう・・・・・・」


行きつけの獣医師に診てもらい、説明を受けました。

ミカンは恐らく先天的の難病を抱えていて、外見に大した症状は見られずとも、普通の猫よりもずっと早く内臓の老化が進んでしまうという病気でした。

見た目はまだ若い猫なのに、体内年齢はもう十歳を超えていて臓器は既にボロボロの可能性がある・・・・・・という診断が。


ミカンの年齢はまだ二歳になるかならないか、だったと思います。


ラグドールは猫の中でも大型種であるのにも関わらず、ミカンは普通の猫と同じくらいか、それよりも小さめな華奢な女の子でした。


この時点で、ミカンの健康を疑うべきだったんでしょう。


体型はガリガリではなく(母たちの家から連れてこられた時は痩せてました。我が家に来て、栄養をつけようと食事に工夫を凝らし、やっと健康的な肉付き具合になりました)、すごくおとなしくて仕草が上品で、けれど男の子であるレアとヒナタと、犬であるモカまでも尻に敷く強さを持った、すごく強い女の子。


とりあえず病院にミカンを入院させ、先生は「最前を尽くす」と言ってくださいましたが、次の日の早朝に病院から電話がかかってきた為、急いで向かった時には「今さっき、息を引き取ったところです」と。


ミカンは家で引き取った時に痩せてただけでなく毛艶も悪く、これじゃダメだからと沢山撫でて毛を梳かしてやっと本来のラグドールの毛艶を取り戻し、少し険しかった顔も和らいできたというのに突然の訃報。


わたしと祖母と叔母で「ミカンは美人さんだね」「可愛いね」と褒めちぎり、やっぱり寂しかったのか何かと人の傍からは離れようとせず、家の中は玄関に続く廊下以外は自由に解放していたので、近くにいた人間が移動すればミカンも後を着いてきたり・・・・・・やっとこの子に、ミカンに、ちゃんと愛情を注いであげられると思ったのに。


せめて、ミカンにとっての最後の思い出が、幸せであってくれた事を祈るしかありませんでした。


「我が家は女の子に縁がないね。女の子の動物を迎えると、何かしらの理由で早く亡くなっちゃう」


そう言った母に、ミカンに限っては違ったんじゃないかと言いたかった。

大型種であるラグドールが「まだ子猫だから」「女の子だから小さいのかも」と楽観視して、何も疑わずに健康管理を怠っていた事に気付いてほしかった。


わたしも早く疑えばよかった。そしたら母たちをミカンの健康診断に連れてくように促せたのかもしれないのに。



・・・・・・やはり、悔いは残るばかりです。


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