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老紳士は ゆっくりと歩いて行った

青年の血痕が残るピアノの 向かいに

向かいには 演奏用のピアノが あった


「先生 いらしてたんですか?

 すみません 遅れてしまって」

演奏用のピアノの前に 学生が立ち尽くしていた


何時着いたのか 学生もまた呆然としていた

老紳士は 学生の肩を軽く叩いて

演奏用のピアノの椅子に 腰かけた


そして 力強く 鍵盤を捕えた

静寂の眠りを 打ち破るかのように

過ぎた日々を 取り戻すかのように


老夫人は 老人の名を呼び 一層 抱きしめた

「神様は 見放さないでいて下さったのね

今日の この日に わたしを導いて下さった」


若い娘は 老夫人の肩にそっと手を置いた

「はじめて この方のピアノを聞いた時

 何故だかわたし 胸がつまされました」


老夫人は 頷いた

「あの時 直ぐに分かったわ 彼だって

 だって 淡い思い出を一緒に紡いだのですもの」


「おじいちゃん どうしちゃたの?」

「長い眠りに つかれたのよ」

老人は 村人たちの手により教会へと運ばれて行った

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