第28話 実力はちゃんと調べてくれ

 太陽が傾く頃、レティ様と別れを済ませて、僕達は領主の館の前に立っていた。


「俺は今から、本を買いに行きたい。二人はどうする?」


 本屋か僕も行きたいな。


「私は今日は疲れちゃったから、宿に帰るよ。」


 章子は宿に帰りたいらしい。


「じゃあ、僕も宿に帰ろう。」


 章子を一人で帰すわけにはいかない。


「そうか、なるべく早く帰るけど、晩飯は先に食べておいても良いからな。じゃあな。」


 お兄ちゃんはそんなことを言って本屋に向かった。


「それくらい待っておくよ。またね。よし、私達も行こう。」


「ああ、そうだな。」


 僕達は並んで歩き出す。


「近道していこうよ!」


「近道?」


「この細い道で行こう。」


 章子はマップを出して道をさしているらしい。マップは本人にしか見えないから僕には見えないからどの道かわからないんだけどな。


 言いたいことは大体わかった。


「来た道の大きな通りの方が安全だし、分かりやすいぞ。」


「いいから、行くよ。」


「しょうがないな。」


 僕と章子は少し細い道に入った。




 細い道をしばらく歩く。細い道と行っても、幅は5メートル程ある。前の世界だったら十分広い道だろう。周りは高い建物が取り囲んでいて少し薄暗い。道は入り組んでいて、先が見通しづらい。道の端にはゴミが散らかっている。道路の舗装は古くなっている。あまりいい道じゃないな。


「章子、一人の時はこの道は通るなよ。」


「別に大丈夫でしょ、これくらい。」


「さっきから人だって全然見ないぞ、危険な道なのかもしれない。」


「幹太は心配性だな、もう。あ、ほら、ちゃんと人いるよ。」


 入り組んだ角を曲がると、5人組の男達が見えた。


「いや、どうだろうな。」


 5人組の男たちは並んで、道をふさぐようにして立っている。男たちはそれぞれ武器を持っていて冒険者のように見える。


 僕と章子の方を見ているようだ。僕達狙いか、何が目的なのだろうか。


「章子、僕から離れるなよ。」


「あれれ、うん。」


 章子も良く無い雰囲気を感じ取ったのだろう、僕の方に身を寄せた。後ろからも小さな足音がいくつか聞こえる。男たちの仲間か、分からないが、今更引き返してももう遅いだろう。お兄ちゃんがいれば、敵の数とステータスが正確にわかったのだろうが、今はいない。


 5人組のすぐ近くまで歩く。どうやら彼らはどくつもりが無いらしい。


「僕達二人に何か用ですか?」


 僕は声をかける。


「ああ、有り金全部と、そこのお嬢ちゃんを置いてけ。」


 男の1人が答えてくれる。お金と女か、分かりやすくて助かる。当然置いていく訳がない。


「僕達はAランクの冒険者ですよ。」


 おそらく僕達はこの街で最強クラスであるはずだ。この男達はあまり強そうじゃない。持っている装備からして弱そうだ。正確なステータスは分からないが何人いたとしても僕の敵では無いだろう。


「もちろん、よく知ってるぜ。黒の三兄妹。」


「だったら、道をあけてください、怪我しても知りませんよ。」


「ハハ、お前たちのこと調べさせてもらったぜ。黒の三兄妹でも戦えんのは長男だけなんだろ。弟と妹はただのお荷物だ。」


 男たちはにやにやしながら話す。


 確かに戦う機会が多いのはお兄ちゃんだ。僕たち二人はお兄ちゃんについて行くことが多い。僕達の戦いを見られていたのか、見た冒険者の話を聞いたのか。


「勘違いしているようですね。僕もAランクの実力を持っていますよ。」


「逃げなかった度胸は褒めてやる。だが、そんなハッタリ信じらんねぇな。良いから、金とお嬢ちゃんを置いていきな。お前はいらん。お兄ちゃんに助けでも求めてきたらどうだ?」


 男たちが下品に笑う。


 少し苛ついてきた。確かに僕が戦う所を見た人間は少ないだろう。章子は戦ったことは滅多にない。勘違いしてもしょうがない。


 だが、僕の実力を甘く見たこと、少し後悔させてやりたいな。僕の実力を見せてやろう。


「はぁ。」


 僕はため息をつくと、右足を高く振り上げて、勢いをつけて、地面に振り落とした。


 すると、地面が爆発した。僕の右足は深く埋まり、そこから放射状にひび割れを作った。


 周りの建物もぐらりと揺れたようだ。小さな地震と言っても良いだろう。少しやりすぎたか。


 さっきまで威勢の良かった男達は腰を抜かしてしまったようだ。尻もちをついている奴もいる。


「ヒ、ヒィ。」


「これで分かりましたか?さっさと…」


「ヒィ!許してくれ!」


 男達はそう言うとあっという間に逃げてしまった。

 情けない男達だな。


「章子、大丈夫だったか、破片とか飛んでないか?」


 僕の後ろに隠れていた章子に声をかける。


「私は大丈夫だけど…この道どうするの?」


「あっ。」


 ひび割れてしまった道路を見る。道路はかなり広く壊れてしまっている。器物損壊罪だ。見つかったらやばい。


「逃げるぞ。」


 さっきの大きな音ですぐに人が来るだろう。


「はぁ、今回は幹太と一緒でよかったと思ったけど、やっぱり最後は格好がつかないよね。」


「ほら、早く、逃げるぞ!」


 僕は章子の手を取り走り出した。


「ハイハイ。」





 後日談として、道はお兄ちゃんの土魔法である程度直してもらった。完全には直らなかったので、その後、領主のヘンリさんに謝りに行ったが、普通に許してもらえた。何とかしてくれるそうだ。その話を隣で聞いていたレティ様はとても笑っていた。


 その笑顔はやはりとても眩しかった。彼女の笑顔が見れたのはきっと幸運だろう。

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三人兄妹次男の異世界冒険物語 寝坊 助丸 @himawari3330

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