幸せな姉妹と男の結末

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 胸の悪くなるお話なので、何時もの黒銘菓を知っている方は覚悟を。

 それ以外の方も覚悟をして下さい。



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 これは、男と、その男に恋した姉妹達の幸福な物語だ。







 不味い………不味いまずい不味いまずイまずい!

 駅のホームで電車を待ちつつ辺りに目を配る。

 開けたホーム。

 二つの線路を挟んだ向こう側のホームでは母親と子どもが手を繋いで電車を待っている。

 太陽を透かすドーム状の駅の屋根には薄く太陽が見えている。

 暑くも無く、寒くも無い。当然、汗などかく訳が無い。震える訳もない。

 しかし、そんな状態で男は脂汗をかき、手足を震わせ、蒼白い顔に恐怖と狼狽で引き攣った表情を貼り付け、貧乏ゆすりをしながら旅行鞄を持って電車を待っていた。



 つまらない男の話をしよう。

 男はとある女と男女の関係を持った。

 衝動的な男は何も考えず、女との関係を深めつつ、その上で別の女に手を出した。

 しかも、手を出したのは妹の女だった。


 姉の静香は穏やかで一途だった。

 妹の穂香は情熱的で快活だった。

 そんな対照的な女達と愉しい日々を過ごしていた。


 姉妹にはそれぞれ自分との関係を秘密にするように口止めをしていた。

 姉妹の自宅へは足を踏み入れなかった。

 名前を間違えるという初歩的なミスもしなかった。




 が、そんな日々は昨日終わった。

 妹の穂香に電話をしたところで姉の静香が出た。

 それに気付かず俺は不用意に穂香の名を呼び、静香は、彼に気付いた。

 それから今までずっと、彼のスマホには姉妹からメッセージと電話が引っ切り無しに届いている。





 俺は今、別の場所へと逃げる途中だ。

 遠くへ。あの二人と二度と遭わない様な遠くへ!

 あと5分、あと五分で特急が来る!

 そうすればもう二度と遭う事は無い!終わりだ!

 「電車!電車!」「もうすぐ来るねー。」

 向うのホームで子どもが楽しそうに親と話しているのが腹立たしい!

 (クソッ!なんで俺がこんな目に!)

 一秒が凄まじく長く感じられる。

 スマホの震えが恐ろしい。

 後ろから足音が聞こえる度に身体をビクリと振るわせて足音の主を確認し、向かいのホームの階段に人影が有ればそちらを凝視し、とても、とても、とても長い時間だった。






 『まもなく二番線に通過電車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックの内側でお待ち下さい。』

 やっと長い時間が終わる…と思ったら、向かいのホームの電車だった。

 (クソ!ぬか喜びさせやがって!)

 心の中で悪態を突きながら男は相変わらずホームにあるもの全てに怯えている。


 ファァァァン!


 警笛が聞こえて電車が見えて来る。

 『早く来い。』

 心臓の鼓動とスマホの振動が体を震わせる。


 轟音を響かせて電車が駆け抜ける。

 『早く来い。』

 通貨電車が運ぶ風が冷汗を吹き飛ばす。


 電車が通り抜ける。


 『まもなく二番線に電車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックの内側でお待ち下さい。』

 『まもなく一番線に電車が参ります。危ないですから黄色い点字ブロックの内側でお待ち下さい。』

 待ちわびた電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。

 安堵のため息を


 『  』


 出来なかった。息を呑んでそのまま呼吸を忘れた。

 理由は簡単。



 目の前のホームの親子連れが消え、代わりに、静香がそこに、立っていた。

 スマホを耳に付け、こちらをじぃっと見ていた。

 「……………」

 出なければならない。

 震える手を強引に動かし、スマホに手を伸ばす。

 「………静香。」

 恐る恐るマイクに向けて声を届ける。

 「ずっと…信じてたの…………」

 絞り出すように、かすれた声が届く。

 「静香!違」「もう良いの!大丈夫!」

 スピーカーと正面から声が響く。

 「結局私がアナタを引き留められなかった…それが悪いんだから………」

 「ッ、いや、違う違う!そんなんじゃないから!」

 何とかしてこの場を誤魔化す。

 静香は穏やかで一途…だが、だからこそ、一度思いつめると何をするか解らない!

 下手な事をされたら男女の問題じゃ済まなくなる!


 ファァァァン!

 警笛が聞こえてホームに電車が来た。


 「だからね……」

 静香がこっちに一歩踏み出す。点字ブロックを踏む。

 「危ないですから離れて下さい!」

 駅員のアナウンスを無視して一歩。

 ファァァァァァァァン!

 電車が警笛を鳴らす中、静香はまた一歩…!

 「忘れなくなって貰おうと思ったの。」


 キィィィィィィィィ!!!!ドッ!キィィィィィィィィィィィィィ!


 電車の金切り声の様なブレーキ音。何かがぶつかる音。

 目の前には静香は居なくなって、赤い絵の具が線路の周りに零れていた。



 ドンッ!

 唖然として居たら、後ろから強い力で押された。

 「え?」

 無防備に前に吹き飛ばされる。

 あっと言う間にホームから落ち、鋼鉄の線路が庇った手にぶつかって痛…え?


 キィィィィィィィィ!!!!ドッ!キィィィィィィィィィィィィィ!


 二つの鮮やかな赤い絵の具が駅の線路を染め上げた。

 「静香姉さんはね、君の心で生きるって言ってたんだ。

 でもね…私はそんなのイヤ。

 君が私の心の中で一生変わらずに、ずっと生きていて欲しいって思うの。

 これで、一生一緒だね。」

 男を押した女…穂香が二つの血を見てそう言った。






 姉は電車に身を投げた。

 妹は男を線路に突き落とした。

 男は身投げをさせて、身投げをさせられた。


 姉は男の心の中に一生生き続けた。

 妹の心の中で男は浮気もせず、変わらず生き続けた。

 男は浮気のしがらみから永遠に逃れた。



 これは、男と、その男に恋した姉妹達の幸福な物語だ。

 これが、愚かしく、狂った、男と姉妹達の幸せな話だ。



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 人殺しなんて紙の上でもするもんじゃ無いですね。

 不殺で面白くがモットーであるべきだなと再確認しました。


 何より、この手の話は苦手なので書いていていつもも傑作では有りませんが、駄作の臭いがプンプンしました。

 でも、愛や恋は怖いですよね。

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幸せな姉妹と男の結末 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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