キョンシー映画を観てみよう!〜『キョンシー』(2013)〜

 禍原かはらだ。


 少々時間が空いたが、七回目の講義だな。

 もう秋だって? 言っただろう。夏の定番のホラーを理解するまでは、本当の意味で夏は終わらないって。

 休暇の残りなんてここでは気にするなよ。



 今回話すのは、中国由来の妖怪から創作され、一時期ブームを巻き起こしたキョンシーだ。



 流行は終わったと思ったが、今年はまたよく見かけるようになったな。


 何でもサンリオがキャラクターをキョンシーにしたデザインのアイテムを出し、ソーシャルゲームのFate/ Grand Orderでそれが絡んだホラー系のイベントがあったとか。


 その方面には疎いんだが、ホラーならやらない訳にはいかないと思って始めてみたら、キャビン、リング、シャイニング、サメ映画となかなかいいセレクトだった……ゲームは映画と違って自分で進めないと話が読めないのが難点だな。



 今日でもいろいろなアレンジが加えられるキョンシーだが、元は古くから伝わる中国の伝承だ。


 漢字で書くと僵屍。この僵の時は死後硬直を示す語で、安置していた遺体が急に動き出す現象が由来らしい。

 どうも当時の検死技術の限界が関わっていそうだな。



 数々の古典作品にも登場する。

 孫悟空でおなじみの西遊記にも出てくるぞ。



 そんなキョンシーを札が貼られて、手を前にして飛び回る、中国版ゾンビのようなイメージに固めたのが1985年公開の『霊幻道士』だ。


 ホラーだがコメディタッチの作風が人気になり、ここからいくつもの派生作品が作られた。


 流行の仕方はゾンビものに似ているが、恐怖のイメージがゾンビほどないのは、火付け役となった作品がそもそも明るかったからかもしれないな。



「昔のホラーだし、コメディなら怖くないし、今観なくても……」と思うか?

 今回紹介するのは、コミカルなイメージを一新するキョンシー映画だ。



 〜キョンシー(2013)〜




 香港のアーティストに加え、『呪怨』シリーズの清水崇をプロデューサーに迎えたという、正統派ホラーだ。



『霊幻道士』のキャストや主題歌を使い、元の作品を観ていなくても問題ないが、観ていれば更に楽しめるオマージュが随所にあるぞ。



 話はまさに『霊幻道士』で道士を演じ、一世を風靡したが、今は落ちぶれた俳優が死に場所を求めて、ある団地に辿り着くところから始まる。



 主人公は自殺未遂を起こしてから幽霊を見るようになり、同じ団地に住む、時代と共に怪異が現れなくなって職を失った道士と関わりながら、団地に隠された暗部が徐々に現れていく物語だ。



 ちなみに道士というのはさまざまな術を使い、キョンシーを操ったり、逆に戦ったりするもので、まあ、魔術師や陰陽師に近いものだと考えてくれればいい。



 死者を蘇らせ意のままに操るキョンシーという存在に、失われたものへの執着を反映させたのがこの作品のポイントだ。



 落ちぶれた俳優、職を失った道士、家族を死や裏切りで失った者。

 そういった住民たちの集まる空間で、人間の妄執によってキョンシーが生まれる。



 主人公は自分が踏み込んだ問題を解決するため、かつて演じていた役のようにキョンシーと戦うことになる。


 これも、朽ち果てた存在が何かに望まれて在りし日を演じるという特性と重なるな。



 ここの部分はゲームをやっていない層は読み飛ばしていいんだが、Fate/ Grand Orderの今夏のイベントで、死なない者の苦悩やそれに対しての同情、夢や願望という部分が強調されていたのは、中国の伝承にまつわる話だったことを考えると、この作品の影響もあると思う。


 ゲームの中で『シャイニング』をパロディした回があったが、この映画でも廊下に立ち尽くす双子の少女の幽霊など、明らかにオマージュを感じるシーンがあるぞ。




 ダークな作風と、暗い印象に反したスタイリッシュな怪奇現象、香港映画らしいアクションも含まれた、見応えのある作品だ。


 Jホラーの湿度のある雰囲気や、『来る』や『貞子vs伽倻子』など外連味と独創性の高いホラーが好きな人間には特に合うだろうな。



 さて、次回は受講者からリクエストをもらった映画の紹介をしようと思う。

 他にも気になるホラーがあれば、気兼ねなく声をかけてくれれば、できる限り解説しよう。



 より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。

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