第28話 意表を突く仮説?

「いい雰囲気だけど、このまま後半に力を注ぐ?」

 高谷が瑠音に尋ねた。

「うん。というより、前半も後半もなし。気になったことやひらめいたことがあったら、どんどん言っていくのがいいよ、きっと」

「それなら私から。昨日も少し言ったことだけれど」

 高谷は前置きしてから、頭の中で話を整理するかのように上目遣いになった。わずかの間を置いて、続きが出て来る。

「暗号文を持っていたと思われる寺北氏の行動については、もっと考えた方がいい気がする。特に、どうしてここに現れたのか。暗号文のどこにも、この辺りの地図に結び強く手掛かりはないと思うの」

 瑠音はそれがあったんだわと、難題であることを強く意識すするとともに、この疑問を疎かにしてはいけないと改めて念頭に置いた。

「委員長~、その見方は鋭いのかもしれないけど、問題がでかくない? 俺達を足止めさせるだけだ」

 早々と匙を投げたような蒼井の発言。これに高谷は怒ることなく、「そうかもしれない」と案外素直に認めた。

「頭の片隅に置いといてほしいの。それだけ重要なのは間違いないわ。これは勘じゃなくて、理屈よ」

「まあ、確かになあ。謎の行動だよな」

「暗号を作った人か宝を隠した人から、別のヒントをもらっていた、と考えるのが一番筋は通るのよね」

 瑠音は以前のやり取りを思い起こし、言った。

「そのヒントはメモを取る必要がないくらい明らかなことだった」

「明らかなのに、この辺りまでわざわざ足を運んだのは何でだろう……? 昨日の晩飯のとき、清順さんが浦浜さん達に聞いてくれてたけれど、あれって手掛かりになるかな」

 蒼井が言い出したのは、寺北の応対に出た浦浜民子の話及び、寺北をそのとき目撃していた浦浜泉一郎の話についてだろう。

「寺北って人は診療所の場所を確認して、それから携帯端末をいじっていた。地図を見ていた可能性があるってな話だったよな。診療所の住所が重要なんじゃないか」

「まさかここの緯度と経度が? どういうつながりで?」

「待って、蒼井君も瑠音ちゃんも。寺北氏は住所は分かっていたはずよ。分かっていなきゃら来られない」

「あ、そっか」

 瑠音は月子の話も併せて思い起こし、ふっと気が付いた。

「……寺北って人が確認したのは、診療所の名称なんだわ。白上診療所と思っていたら、手塚診療所だったと分かって、納得したみたいな雰囲気だったって」

「ていうことは、診療所を白上だと思い込んでいたのに、だいたいの場所は分かっていた? 何かちぐはぐだよ」

 倉持の指摘に彼自身も含めて、皆黙り込む。

 しばらくの間、雨が地面や窓を叩く音がよく聞こえた。

「ちぐはぐでも」

 最初に口を開いたのは委員長の高谷。

「寺北氏が診療所の正確な場所を知りたがっていたのは可能性が高そうよね。直後に携帯端末で見ていたのがこの付記の地図だとしたら、辻褄が合う。ひょっとしたら東経と北緯を調べていたのかも」

 これに倉持が呼応した。

「もしそうだとしたら、ここの緯度と経度が“紛れ”の世界遺産に代わって、計算に使われることになるのかな」

「それが自然な流れよ」

「……けど、全部の組み合わせを試すやり方は、なるべく取らない、だよね?」

「そうね。今はまだ早い、ということにしておきましょう。どの世界遺産と入れ替えるのか、決め手があるはずよ」

「だったら」

 すかさず瑠音が言った。

「車の中でまた聞いたから、どうしても心に引っ掛かったんだよね。白上さん家って」

「あ、それ、俺が前に言ってた」

 蒼井の割り込みに気を悪くすることなく、にっこりする瑠音。

「そう。白神山地の代わりに白上さん家じゃないかと思う」

「面白い仮説とは認めるけれど」

 高谷が慎重な見方を示す。

「宝を隠した人、あるいは暗号を作った人が、どうしてここの白上さんの住所を暗号に組み込むのかしら。まさか、月子さんかそのご家族が宝を隠した?」

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