第37話 私だってたまには落ち込むのさ

 とりあえず家路に着く事にした。相変わらずこの改造された箒はよく飛ぶなあ。


「ねえねえエーフィー! あのエラって子は何者なんだい? 学校は何時から何時まで何だい? 色々知りたい事がいっぱいだよー!」


 そうか、ホッシーは何も知らないんだな。説明してやらねばね!


「えーっと、じゃあ学校からね」


 マギシューレン、エーレが世界に名を羽ばたかせるきっかけとった学校である。基本的に自分の様な年齢の人は、標準的な学校に通うのが普通だ。標準的とは、しっかりと縛られたルールに則り、毎日通い、筆記試験に合格して進級をする事である。


「へー、その言い方だと、マギシューレンは真逆みたいだね」


 基本的に魔法の学校というものは、縛られる授業が無い。皆自分が学びたい様に学び、行きたい時に学校に通っている。基本的な方針が放任なのだ。その分自己管理が求められるが、魔法使いというものは生涯を勉強に費やすと言っても過言ではない。たかが学校すら通えない者は、そもそも魔法使いに何てなることは出来ないのである。


「ふーん、というか、当たり前の様に魔法が使われてるけど、使えない人もいるって事だよね?」


「ええ、魔法はごく一部の限られた人にしか使うことは出来ないの。人口比率で言ったら圧倒的に少ないのよ? そんな希少な存在だから、魔法の家系って基本的にお金持ちが多いのよ。あのエラッソ・モイツみたいにね!」


 エラに関してはちょっと異常だ。

 彼女の父親は確か商売人だったはず。魔法関係のね。もしかしてコリーさんなら何か知っているかも? 会った時聞いてみよう。


「へぇ〜それなら自由時間はいくらでも取れるね! 便利屋の仕事も沢山受けれるじゃないか!」


 でも、きちんと授業を受けないと、試験に落とされてしまう。

 実技試験がダメな者は、筆記試験で頑張らなければいけないのだ。もしそれでもダメなら留年、最悪退学もあり得るのである。


「にしても、エラッソの態度、なんて高飛車なんだい! エーフィーももっと言ってやれば……ん? あれ? 色仕掛けしてなかったっけ? 悪女だったよエーフィー!」


「あの子は入学の時からあんな感じよ。私の事が大好きみたいね」


 シーナよりも過激派かもしれないと思う今日この頃。気をつけなければいけないね。


「で、試験はいつなの? 魔法のお勉強、少しは私も手伝えるかもしれないよ!」


「明後日、だから家に帰って猛特訓ね!」


––––

–––––––––


 二日後––––。


「はいFランク! 少しは進歩していたね! その調子よ!」


「がああああああん!!! そんなああああああ!!」


 折角一生懸命頑張ったのに、ファイの魔法だって飛ばせる様になったのに! くそう、Fの壁が高いぜ。


「く、ううう……」


 とりあえず落ち込むし、お腹も空いてきたので自前のサンドイッチ食べる事にする。

 場所はいつもの所だ。学校から少し外れた公園。そこの長椅子に腰掛け、風呂敷を広げる。


「まぁまぁエーフィーさんや、落第にならずに済んでよかったじゃないですか。これでも飲んで落ち着いて下さいよ」


 持ってきた保温機能付きの水筒から、香りの高いコーヒーが注がれる。


「ほら!」


「ん、ありがとう」


 そうだ、いつもの事じゃないか。いつもの事……頑張っても頑張っても報われないことなんて、いつもの事である。


「おーーーーーーーっほっほっほっほうほほ! あらあらエーフィーさんじゃない!! 奇遇ねこんな所でお会いするなんて!!! おーっほっほっほっほうほほほほほほ!!」


 ん、いやまぁ尾行されてるのは気づいていたよ? その大きな黒髪のツインテールなんて見落とすとでも思っているのかい? かいー? ってホッシーは……上手く隠れたか。


「エラ、試験はどうだったの?」


 エラはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに鼻息を荒くし、高らかに叫びだした。


「ふふふ、うっふふふふふ!! 私、今日からSランクの魔術師として名を馳せる所存でございますのよ? これであのにっくきシーナ嬢に差をつけてやりましたわ!!! やりましたのよ私!!」


 なるほど、自慢したくて堪らない訳か。こちとら本気で泣きたい気持ちなのに。

 でも素直に凄い、あのシーナを超えるなんて、相当努力したのだろう。

 私は……努力が足りないのかな?


「凄いねエラ。私じゃ到底真似出来ない芸当だよ」


「ふ、ふふん! 貴方だって、これくらいコツを掴めば簡単なことよ!」


 どんなに嫌味を言っても、決して人を否定をしない所が彼女の良い所だ。憎めないキャラなのである。


「ふふふ、それなら今度教えて貰おうかしら? エラの教え方なら、きっとFのランクなんて簡単なのでしょうね」


 ふと、彼女の表情が変わる。もしかして落ち込んでるのを見抜かれたかな?


「……エーフィー、ちょっと時間あるかしら? お昼をご一緒しても?」


「お昼? うん良いけど。まだサンドイッチ食べてないし。あ! もしかして美味しい所に連れてってくれるとか? またまたそんなからかっちゃ––––」


「からかってなどいません! 私はね、貴方の落ち込んだ顔なんて見たくないのです! 余計なお世話かもしれませんが、今からお付き合い下さいまし。セバスチャン!! セバスチャン出てきなさい!」


「今度はどこからやってくるやら––––!?!?!?!?」


 まさかの長椅子の下からの登場である。

 思わず信じられないほどの悲鳴を上げてしまった。


「ぎゃああああああ!?!?!?!?!?!?」


「こらセバスチャン! エーフィーがびっくりしているじゃないの。もっと普通に登場してくレないかしら?」


 いやいやいやいやいやいや心臓止まるから。まじで心臓痛ぁ……。


「ほっほっほ。これまた一興ですなぁ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る