第35話 君は家族さ!

「こーら、ホッシー早くそれこっちに寄越してよ」


「はいはーいっと。全く、星使いの荒い魔術師だぜ」


「なんか言った?」


「ううん、今日も可愛いなぁエーフィーはって思っただけさ!」


「悪かったわね、星使いが荒くって」


「聞こえてるじゃないか!?」


 エーデル院長に査定金額を伝えられてから数週間後、家の退去命令が出たので早々にお引っ越しをすることになった。幸いな事に次の家もかなりの大きさの為、それなりに自分の所有物を持って行っても邪魔にはならなさそうだった。


「あ、ジャスティーさんそのタンス重いよ? 二人で持った方が良いんじゃない?」


「ん? はっはっは! 僕は勇者だよ? 見てご覧」


 何とあの馬鹿でかいタンスを片手で持ち上げてるではないか! なんて腕力。やはり勇者に選ばれるだけのことはあるということか。


「ふーん、まあそれくらい出来ないと魔王になんて勝てっこないもんね。でも逆にその程度で威張り散らしてるなんて、器の小ささが知れてるわ!」


 シーナは相変わらず勇者に冷たい。


「な……!! 何をー!!」


 勇者が怒るのも無理はないのである。だが深く関わるのはやめておこう。とりあえず今は目の前の大量に荷物を捌かなくては!


「あ! エーフィー、もうそろそろ春休みも終わりだし、学校の準備をしなくちゃね!」


「え? ああそうだったね……学校かぁ」


 落ちこぼれにとって学校とは窮屈なものなのだ。好きと言えば好きだし、学ばなくてはいけないことも沢山あるのだが、如何せん膨らんだ借金が頭を支配してくるのだ。授業に集中できなさそう。


 数時間後––––。


「ふはー! 終わった終わったっと! にしてもジャスティーさんのおかげでかなり作業が早まって助かりましたよ」


 彼はこの前のお詫びにと、私の引越しの手伝いをしてくれたのだ。

 正直かなり助かった。業者さんに頼もうものならかなりの額が掛かる。今うちの家計にその様な余裕はないのである。


「いいんだよ、迷惑を掛けたし」


 そう言いながら勇者はシーナの方をチラリと見た。もしかしてまた何か言われるのかとビクビクしているのかもしれない。可哀想に……。


「はいエーフィーお茶! 喉渇いたねー」


 少し休憩しようと言い、シーナがお茶を汲んで来てくれた。

 この茶葉はきっと柑橘系だね。氷の魔法で冷え冷えになってるのには感動する。自分には出来ない芸当だ。


「ふふん、シーナさん、どうせ僕のは用意していないんだろう? 分かってる、分かってるよ。だから今日は自前の水筒を持って来ていたのさ。気にせずお茶を楽しんでくれたまえ。僕はこんな事でめげる男じゃないのさ」


「え? 何言ってるの? せっかく無償でお手伝いしてくれる人に対してそんなこと出来る訳ないじゃない。ほら、こっちがあなたの分と、汗拭き用のタオル」


 な、何だってーー!?!? と阿鼻叫喚の顔に早変わりの勇者。ちょっと面白かったから笑ってしまった。


「今日は手伝ってくれてありがとね? やっぱ乙女二人じゃキツかったよ」


 ニコッと満面の笑みで勇者を労うシーナ。

 罪な女だぜ。


「ブハァ!? う、嘘だ……毒だ……毒が入ってるんだ」


「もー! 毒なんて入れる訳ないでしょ! 失礼ねプンプン!」


 シーナの雨と鞭に動揺する勇者。魔王討伐の道は険しそうだ。


「ああ〜……シーナさんの入れるお茶は美味しいなぁ〜ズズズ、ズズズ」


 下品に啜りながらお茶を飲むホッシー。まぁ星だからマナーのしつけなんて意味はないと思うけど、一応念の為にビシッとしておこう。もしかして凄く高いレストランとか行く可能性も無きにしもあらず。


「ホッシー、お茶は啜りながら飲んじゃダメなの」


「えぇ〜、星だからいいじゃないか。加減が難しいんだよ〜」


「錆びればいいのに」


「冷たいね!?」


 シーナと勇者がびっくりした顔でこちらを見ている。気持ちは分かるよ。私も最初はびびったもん。


「まじ? この星お茶とか飲むんだ。エーフィーに言われて半信半疑で用意してみたけどさ……」


「何だか……自分の常識を疑ってしまう光景だね」


 そりゃあ液体を啜ったり固形物を摂取する星なんて初めてだろうさ。そこは常識を疑ってもらわないとこっちが困るよ。あらー最近の星は飲み食いが出来る様になったかー、とか言われた日にはこの国出て行くどころの話じゃないよ。


「ねぇねぇエーフィー! それよりもさ! 学校に行き始めるのかい? いいねぇ〜何だか楽しみになってきたよ! もちろん私も動向するからね!」


 ソーサーにカチャリと丁寧にカップを置きながら、興奮気味に星が喋っている。うん、もう見慣れた光景よ。


「……来るの? ホッシーが来ても楽しくないかもよ?」


「何を言ってるんだいエーフィー! 私は君が心配なのさ。君といつも一緒に居たいんだ! 家で一個がお留守番なんてそんな悲しい話があるかい? おっと! ここで一人って言わないところがこのホッシーの成長ポイントだよ! 褒めてくれたまえ!」


 胸? の部分に鋭角の先っちょを当てて、いかにも称賛を浴びせろと言わんばかりのポーズを決める星。

 まあ暇することはないだろうし、連れてってもいいかな。


「連れてくの? エーフィー」


 それに学校にはシーナもいる。


「うん、流石に家に一人は可哀想だからね」


 おっと、ここで決して一個とは言わない所がこのエーフィーの成長ポイントだぞ!

 もう君は我がマグ家の一員なんだからね!

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