第34話 災難続きはもう沢山!

 いきなりのホッシーの挨拶に面食らう二人。

 シーナに関しては開いた口が塞がらないと言った所だ。


「こらホッシー! いきなりそんな名詞で自己紹介をしないの! 自己紹介ってのはね、自分はどこどこの誰々なのさってのをきちんと言わないといけないのよ!」


 ホッシーは「確かに!」と驚いた仕草をしている。

 器用な事に、目? の部分だけをこちらに向け、体全体で感情を表してるかの様だ。

 いやいや、常識でしょ普通……って、この星記憶無いんだった。


「ゴホン! では改めて……我名はホッシー! 魔術師エーフィーの保護者としてお世話になってる者だ! 彼女の名において、この私に逆らうあいたたたたたたたたぁ!!! 痛いよエーフィー! 鋭角を引っ張らないでおくれよおおお!」


 口を開けばまともなことを喋らない星には、天罰が必要なのだ。あれ? 星が天な筈だけど。って細かい事はどうでもいいか。


「だーれが保護者よだ・れ・が!! 生意気にな星にはくすぐりの刑だー!!!」


 こしょしょしょしょしょーーーっと一人と一個でしょうもない醜い争いをしている最中、シーナが割り込んできた。


「ま、待って待って! 頭が追いつかないよ。その星は一体何? どうして喋れるの? いつからなの? ねえ! ねえったら!」


 シーナは気になって仕方がないみたいだ。まあそれもその筈か、得体のしれない星と一緒にいて仲良くしてる姿を見てるんだ。不思議な事で一杯だろう。


「ええっと、どこから話せば良いのやら。とりあえず家に上がってよ。コーヒーとお茶菓子用意するね。あ、勇者さんも入ってく?」


 冷静に考えれば勇者じゃないか。魔王を唯一討伐出来る存在。普通の一般人なら話しかけることすら許されない身分の高い者。それがこんな所で油を売ってても良いのだろうか。


「う、うん。その星が気になってしょうがないんだ。できれば詳細を聞きたい」


「入るのはいいけど、もうエーフィー襲っちゃダメだからね? 今度は全国民に発信するから」


「だから違うってばあああああああ!!!!」


 シーナは勇者に厳しかったのであった。


 それからしばらく、今までの出会いを話す事になった。

 どうせ隠しててもバレるだろうと思い、祖母のミルロがギャンブルに負け、借金を背負ってしまった事。

 その借金を大叔母様が受け継ぎ、返済する前に他界してしまい、それを全て引き継いでしまった事。

 そして、ホッシーとの出会い。願いを集める砂時計を託されたことを話した。ついでにもうこの家に住めないこともね。


「そ、そんな事になってたなんて……もう! ばか! なんでもっと早く相談してくれなかったのよ!」


 そりゃあ、最初に言いたかったさ。

 でも、心と頭が一杯一杯だったんだ。相談する余裕なんて無かったし、心配掛けたく無かったのだ。


「ごめんね、シーナ。次からはきちんと相談するから」


 シーナとギュッと抱きしめてきた。

 彼女の抱擁には不思議と人を落ち着かせる魔力がある。

 心の奥底からほっと胸を撫で下ろすかの様な、不思議な気持ちだ。


「なるほどな。願いを集める砂時計、聞いたことが無い。マーフィー・マグの最後の宿題というわけか……」


 じっと考え事をしている勇者。


「ねえ勇者さん、何か心辺り無いの? そちらのお爺様から大叔母様のお話しとか聞いてない?」


「え、そりゃあ沢山聞いてるさ。史上最高の魔法使い。魔王とも張り合った実力者ともね。あ、でも……印象に残ってる話しが一つだけあるな」


 勇者がゆっくりとコーヒーに口つける。


「最後の戦いが終わった後、皆勝利の喜びに浸っていた。けど、マーフィーだけはそうじゃ無かった。泣いてたって言ってた。理由は教えてくれなかったそうだ」


 それ、エーデル院長の話しと似ている気がする。


「学院長が大叔母様と親友同士だったんだけど、魔王討伐から戻ってきた時から様子が変だったってこの前話してくれたよ。やっぱり繋がってるのかなぁ。その辺も調べてみないとね」


 ひとまず今回の騒動は終わりを告げた。

 次なる使命はホッシーの解放、そして大叔母様について調べ上げることだ。

 ……って違うちがーう! まずは膨れ上がった借金をなんとかしないと。

 とりあえず、もう鑑定は終わってる筈だ。一旦エーデル院長の所に行ってみよう。


「じゃ、事態も治ったことだし、今からエーデル院長の所に向かうかな! 遺産の査定金額も知りたいことだしね!」


「あ、それ私も付いていっていい? エーフィー一人じゃ心配だよぉ」


 良かった。シーナがいれば心強い。

 

「あの……僕も一緒に行っていいかな? おっともちろん変な意味じゃないぞ! 事の顛末を見届けたくてだな。それに願いの砂時計も気になる。一回は明るく光ったんだろ? その場面に出くわせば何か分かるかもって思ってだな。いや、シーナさん? そんな蔑んだ目で見てるけどほんとーにやましい事は考えてないからね?」


 ガルルルルと獣の呻き声を上げながらシーナが勇者を睨んでいた。彼女は気が強いなぁ。


「ふん! もしかして貴方エーフィーを狙ってるの? いくら勇者でもそうはさせないんだから! この子は私の物よ! 絶対に渡してなるものですか!!」


 さっすがシーナってちょいちょーーーい、本音がダダ漏れしているぞ。もっとオブラートに包み隠したまえよ。っって痛い痛い痛い!! 抱擁が段々ヘッドロックになってきてるってば! 首が折れる折れる折れるううううう愛が重い重い重いいいいいいい!!!


 そんなこんなで、三人でマギシューレンへと向かう事になった。


 エーデル院長の部屋に入ると、開口一番にこう告げられる。


「あらエーフィー。頑張ってみたけど、五千万デルが限界だったわ。てっきり一億五千万デルくらい行くかと思ったんですけどね。ドンマイです」


 は!?!?!?!? 安すぎでは!?!?!?


 連続して衝撃的展開が続きすぎたせいか、急に意識が遠くなり、その場で気絶してしまうのであった。


「ふああ……借金二億五千万デル……」


「あああ!! エーフィー!! エーフィいいいいいい!! クッソおおお勇者めええええ!!!」


「ええええ!?!? 俺ええええ!?!?!?」

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