第17話 得意料理はサンドイッチ! それ以外は炭!

 シュバウツ商会。国の経済にも一役買っている大御所中の大御所。その商売は多技に渡り、賃貸業や卸し、小売や飲食、果ては冒険者ギルドの設営にさえ手を伸ばし始めているそうだ。まあ一言で表すと、商売に関して国を支配しているとも過言ではない。と、いう事らしい。


「元締めですな。ここいらで商売をするとすれば、彼の許可が必要なのです。任意ではありますけどね、手堅い保証も受けれるので許可を取らない人は殆どいないでしょう」


「と、いうことはここも?」


「ええもちろん、彼らは経営困難に陥った店を立て直す為の助成金でしたり、経営の指導もしたりしますからね。大助かりです。他の国ではこの様な制度は他にありませんとも。しかも手数料も子供のお小遣い程度のものですから、困窮する事はありませんしね」


 なるほどなるほど、表に出てこない名前だから恐い所なのかなと思ったが、そうでは無い様だ。しかも早速有益な情報を得る事も出来た。コリー・シュバウツについてだ。


「で、そのコリー・シュバウツとはどこで会えるんですか? ちょっと話さなきゃいけないことがあってですね」


「ほう、コリー様とお会いになられたいと。うーむ、どこで会えるかは私も知りませんよ。お城に住んでるかもしれません。国の要の人物ですので。それよりもこちらの家で決定で宜しいんですね? サインと手形を頂いてもいいですか?」


 どちらにしろあの家以外安い所はなさそうなので、先に諸手続きを済ませておくことにした。これで目下の問題は解決。路頭に迷うことは無くなった訳だ。


「今回の物件、特に費用は必要ないけれど、掃除やら修復やらは自分でしてくださいね」


「分かりました。何から何までありがとうございました。失礼します」


「うん、何か困ったらいつでも訪ねてくるといいよ。じゃあね」


 一礼し、その場を後にする。

 これで家の問題は解決。次に仕事を探さないといけないのだが、その前にコリー・シュバウツについて調べなければ。

 商人の人なら何かを知ってるかもしれないけど、知り合いにその様な人はいない。いっそ中央のお城まで出向いてみるのもいいだろう。遠いけどね。


「うーん、どうしようかな。一旦屋敷まで戻って事情を説明しよう。数日掛かりそうな気もするし。マリーちゃんも待ってるだろうし」


 そこから屋敷に戻り、マリーに事情を話した。マリーはコリーが生きてることに喜んでいた。もしかしたら兄も病に掛かっていたかもしれないと心配だったみたいなのだ。

 ある程度の日数がいることを伝え、またその場を後にする。中央のお城まで出向かうとなると、それなりに準備が必要であるし、そこにコリーがいるとは限らない。ひとまず家に帰るとするか。


「ふぅ、今日は何だか疲れちゃった。帰りにお仕事雑誌を貰って帰ろう」


 手当たり次第見てみるしかない。収入が高ければ良いが、それ相応の能力が必要とされるので、自分に出来るかどうかも見極めなければ。


 帰りに食材と雑誌を携え、箒に乗って帰宅をする。もちろん最大限に節約を重ねた、厳選された食材達だ。腹が膨れれば良い。そんな女子力0のメニューである。


「ねえねえエーフィー、私もお腹が空いたなぁ、何か食べたいなぁ」


 相変わらず冗談が下手な星である。そもそもどこから食べるというのだね君は。口? 見当たらないぞ。後で顔に無理やりパンでも押し付けてやろうか、それか上から水でも被せてみるか。色々試したい所である。


「はっはっは! 面白いこと言うねホッシー。笑わせてくれてありがとね」


 グギュルルるるるーー


 とんでもない腹の虫が鳴り響いた。もちろん自分の腹からではなく、胸の辺りから聞こえてきた。私の胸はお腹が空いてるのかな? 否、断じて違うのだ。


「……ホッシー?」


 とりあえず犯人の名前を呼んでみる。

え、まじで、この星ご飯とか食べるの? 感情美味い美味いって言ってたこの星が? 物理的に食事したいだと?


「ああ、すまないねエーフィー。どうやら私もお腹が空くみたいなんだ。そういえば昨日から何も食べてない。このままじゃ倒れてしまいそうだよ」


 なんとも表情が読み取れない声色で淡々と喋り続ける。

 でも、それが本当なら流石にかわいそうなので試しに後でパンをあげてみよう。どこからパクパクするのか見ものである。


 家に着いた頃には日も落ち始め、赤い夕焼けが空を覆い尽くしていた。いつ見ても良い眺めである。

 部屋に入り、早速キッチンにて簡単な料理を作る事にした。買ってきたのは山菜にベーコン、ふっくらフワフワの大きなパンに、卵である。いつもこれでサンドイッチを作っては食べるのが習慣だ。もっと食事の質を上げても良いかなと思ってはいるが、魔法の勉強もあるので時間が無いのである。


 備え付けの冷凍食料保管庫を開け、食材を放り込んだ。奥の方にまだ使い切ってないのがあった為、先にそちらから消費しなければもったいない。

 自分のより先にホッシーのご飯を作ってあげる事にした。サンドイッチで文句を言われる事はあるまい。トマトは潤沢にあるので、これとベーコンとチーズで最高のサンドイッチを作ってやろう。


 一つ目のコンロに火を付け、慎重に食材を解凍していく。その間にパンを均等に切り分け、もう一つのコンロで今度はお湯を沸かし始める。サンドイッチの最大の親友であろう、コーヒーの準備なのだ。世の中には、紅茶派という理解に苦しむ人達もいるらしいが……おっとっと。この思考は良く無いね!


「ホッシー、出来たよ。あんたどうやって食べるの?」


「うおおおおお!! エーフィーすごいじゃないか! まるで宝石箱だよ! うわぁ、美味しそうだなぁ〜。いっただっきまーす!!」


 鋭角でちょこんとサンドイッチを掴むと、一口ほうばったのか、3分の1が消えていた。一体どの様な原理なのか分からないが、もう考えるのも馬鹿らしくなってきたのである。


「ふ、ふーん……。どうやって食べてるのか知らないけどさ、まあ美味しそうで何よりだよ。コーヒー飲む?」


「ああ! もちろん頂くよ! あー……なんて幸せ者なんだ〜……」


 サンドイッチひとつで大袈裟な。

 でも自分が作った物をそんな風に言われるのは悪い気分じゃない。作った甲斐があったというものだ。


「明日も頑張らないとなー、さって私も食べよっと」

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