第6話 感情が見えるって卑怯じゃない?

「なるほどなるほどー、ここにある財宝を売っぱらうって事ね。まあ背に腹は変えられないでしょ。どれくらいになるかは分からないけどさ」


 星は辺りを見渡し、金目の物がないか物色を始め出した。なんだかやけに人間臭い行動である。本当に記憶ないのか?


「ねえちょっとあんたさ、今さらっと自然にしてるけど、もっと色々教えなさいよ。なんで星が喋ってるのよ!」


「はぁ、適応能力の低い子だね。そんなんじゃこの先やってられないんじゃない? 大丈夫? 臨機応変だよりんき! いきなり殴りかかってくるしさ、全くもう。記憶の無い星を見て可哀想だとは思わないのかい?」


 なんだこの星くそ腹立つー! 

 ち、まあいいか。大叔母様の伝言には解放してあげてって書いてあったけど、どう言う意味なんだろう。何か他に手がかりはないかな。


「あ! エーフィー今一瞬だけ赤色になったね? 短気な子だ。怒りっぽいのかな?」


「へ? どう言う意味?」


 怒りっぽいって、ちょっとムカっとしただけなんだけどな。赤色ってなんだろう?


「お、今度はまた一瞬だけ青色になった! 驚いてるね? と言うことは図星かな? ふふふ」


 もしかして、心を読まれている?


「ええええ⁉︎ どういうこと⁉︎ どういうことなの⁉︎」


 目の前の両手くらいのサイズのお星様が、ふふふと口元? の位置にあるであろう箇所を押さえながら笑っている。軟体で器用な金属である。


「うーんどういうことだろうね? どうしよっかなー、教えてあげよっかなー」


 軟体な星形金属は、二本の鋭角を頂点の後ろに添え、向こうにそっぽを向きながらいじらしい台詞を吐いている。


 勿体ぶってる星にもう一発入れてやろうかと思ったが、心を読まれてるのならそもそも避けられてしまう。あれ? でも最初の一発は見事にクリーンヒットした。ということは心を読んでる訳じゃないのかな? 試してみるか。


 床に落ちた杖をもう一度拾い。さっきよりは軽い威力で振りかぶって見せた。


 ペコチーン!☆


 またもや見事な当たり、球技はどっちかっていうと得意な方だ。


「痛ったぁぁぁぁぁーーーい!!! またまたいきなり何するんだね!? さては試したな? 試したんだな!? どうせ心を読んでるなら避けられる筈だと思い込んでいたんだろう!? 読めません! 読めませんよ! そんな芸当出来る訳無いじゃないか! 近いは近いんだけどさ、殴る前にすこーーしは考えてくれない!? しかも若干黄色になってるって笑うんじゃなーーい!! サイコパスかよ!?」


 怒涛の物言いに若干戸惑いの色を見せてみる。


「け、なんだよなんだよ緑色なんか出しちゃってさ! 悪い事したなぁと思ったのなら最初からするんじゃないよ全く! プンスコプンスコ!」


 今度は緑色、どういう事だろう。あれ、もしかして……。


「色が、見えてるの?」


 さっきから何色も言ってるからでもあるし、自分の感情と結びが強い色も出ている様に感じた。怒りは赤、喜びは黄色、戸惑いや罪悪感は緑色。


「ご名答だよ。私には色が見えるのさ、対象となる人のね。どこでこんな能力手に入れたか分からないけど」


 それが本当なら世紀の大発見である。今すぐ鑑識所に持っていって大金と交換して貰わなければ。もしかしてこれ一個で3億デル行ったりして……は! だめだだめだ! 大叔母様の最後の願い、無視する訳にはいかないのだ!


「うーん? 若干青みがかった緑色が出てるねえ? なんなのかな?」


「わーん! もう見ちゃだめーー!! なしなし! ズルすぎるよそんなの! 禁止禁止!」


 心は読まれないにしても、感情の色が見えるというのは推察がしやすい分、厄介ではある。


「ふふん、これに懲りたらもう杖で殴っちゃだめだからね!」


 ピシッと鋭角を指され、戒めを受ける。でも確かに常識的に考えて、いきなり杖で殴るのもどうかと思うし。ここはやめておくかな。


「うん、でもまた色を見たら武力で対抗するから」


「……了解」


 これでなんとか生殺与奪件を自分の所に戻す事が出来た。開幕いきなり交渉なんて、乱暴な女の子だ。


「はぁ〜、それにしても人の感情って美味しいよね〜。何だか久しぶりの感覚だよ」


「は? 美味しい? 何それ? 吸い込んでんの?」


「うん! なんか色を見てる時だけ、なんだけどね。中々に美味ってちょおおおおい杖を構えないでよ!!」


「何よ!! やっぱり悪魔じゃない!! そんな事するなんて! 私の感情が消えたらどうするのよ!」


「待て待て待てってば!! 消えないっての! 人の感情は無限に湧き出てくる物なの! だから大丈夫ってば! 自分もどうしてこんな構造なのか分からないんだって! うわーん、もう痛いのはやだよー!」


 ムムム、それが本当なら問題はない。けど、やっぱりどこか胡散臭いのである。そもそも都合の良い部分で記憶を失い過ぎじゃないか? 普通ならそんな能力も消し飛んでてもおかしくはない筈だ。


「分かった、でも嘘だったら競売にかけるからね? 本当の本当に記憶はないのね? 嘘は言ってない?」


「本当の本当! 信じてくれよー、涙を見せた仲じゃないか」


 星の涙なんて見てはいないけどね。

 実際流したら錆びて面倒そうだ。


「はぁ、まあ良いわ。大叔母様があなたを解放しなさいって手紙に書いてあったし、無碍にすることなんて絶対できない。やるしかないのよね。でもその前に、何か良い物を探して回収しないと。全部無くなっちゃうんだから手伝ってよね!」

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