エピローグ




《七月十七日(金)》


 太陽に煌めく電車のドアが開く。そこには、高山君がいた。


「初めまして。高山君」


 私は、声をかける。私から、声をかける。


「あ……初め……」


 顔をあげて答えた高山君は、途中で言葉を切った。


「昨日の放課後、何をしたか、覚えてる?」


 私は満面の笑みで訊く。


「昨日……」


 高山君の顔がゆっくりと赤くなる────





「…………篠崎さん」






 私は、おかしな女だ。ずっと君を追い続けた。気持ち悪い女だ。恥ずかしい。そう、恥ずかしい女だ。



「全部……全部分かるの……?」


 私は、高山君に寄りかかった。涙が、止まらない。滝の様に流れ出る。そう、きっと、私のダムは決壊してしまったんだ。高山君のシャツを掴んで下を向き、声を殺して泣いた。



「うん。全部分かる」



 高山君は優しかった。滲んだ目を開けると、下ではあの猫が生きていた。



「パンを買った事も、ショッピングモールでストラップを買ってくれた事も、約束を破っちゃった事も……全部思い出した」



「はは……恥ずかしいね……ほんとに恥ずかしい。恥ずかしい奴だよね……ほんと」


 涙が止まらなかった。ごめんね、高山君。こんなに、迷惑かけて、変な事して……。


 恥ずかしい。私、やっと恥ずかしくなれた。人は、未来があるから恥ずかしくなれるんだ。



「なんで忘れてたんだろう。本当に」


高山君が優しく笑う。


「篠崎さん、毎日会いに来てくれてたんだね」


「あはは、馬鹿だよね」



「そんな事ないよ……ありがとう」




 車内は外と隔絶して涼しい。




「今日も会えたね。高山君」




 私は頑張って顔を見た。笑顔だって決めてたのにな。


 高山君は照れた様に笑った。


「そうだね。今日も会えた。明日も明後日も会える」



 私はポケットに入った私のストラップを、強く優しく握りしめた。

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RE FIRST TAKE たにがわ けい @kei_tani111

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