なぜ変動相場制は必ずしも経常収支の均衡を導かないのか

 まずは、それぞれの言葉の意味について確認しておきたい。経常収支の均衡とは、対外的に経常黒字や経常赤字が釣り合っていることをいう。反対に、経常収支の不均衡とは、対外的に経常黒字や経常赤字が釣り合わない状態であることをいう。また、変動相場制とは、外国為替レートが市場の需要と供給により決定される通貨制度のことである。一方で経常収支とは、国際収支表のなかで、財・サービスの取引の項目のことである。経常収支は、貿易収支・サービス収支・所得収支・経常移転収支から成る。国際的に対外的な財・サービスのやり取りであるとも言える。

 通貨制度である変動相場制と、国際収支の一項目である経常収支は、必ずしも関連しておらず、連動もしていない。経常収支の主な内訳である貿易収支はモノの輸出入を、サービス収支は海外旅行、運輸、保険、金融、通信、文化的活動、特許権使用料などの対外的なサービスのやり取りを指す。他にも経常収支の内訳である所得収支は、海外での雇用に対する報酬や投資収益を指し、経常移転収支とは政府間の無償資金援助、国際機関への拠出金、などといった資産の一方的な移転を指す。国際的に対外的なこれらのモノやサービスや金銭などのやり取りから成る経常収支は、変動相場制であっても固定相場制であっても、自由な資本移動を導入してさえすれば、その通貨制度に左右されるものではない。それよりは、各国の政府の政策や景気の動向、対外関係、国際情勢などの経済以外の要因で左右されると言えるのではないだろうか。

 つまり、変動相場制が必ずしも経常収支の均衡を導かないのは、それらに明確な相互関連性がないからであると考える。

 ちなみに、近年はグローバル・インバランスの時代であり、各国の経常収支の黒字もしくは赤字の規模はむしろ大きくなっている。変動相場制の下で、現実的には経常収支の不均衡が大きくなっているのである。この事実からも、変動相場制は必ずしも経常収支の均衡を導かないことが窺える。

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