労働保護法、集団労働法、社会保障法について

 本リポートでは、法の発展において、福祉国家主義の特徴を近代市民法の3つの特徴と対比しながら論じ、現代の日本で福祉国家主義を象徴すると考えられる「社会法」である、労働保護法、集団労働法、社会保障法を取り上げて、それぞれを論評していく。

 福祉国家とは、国家権力を通して「社会権の保障を重視して制度の整備を進める国家」のことであり、社会権とは、「社会保障についての権利、労働の権利、医療・教育を受ける権利」などに代表される権利のことである。したがって、これらが保障されていることが、福祉国家の特徴である。

 だが、これらは現代になってから実現されたことで、近代法では必ずしも保障されていなかった。

 近代市民法(近代法)は、近代市民社会の産業資本主義社会そのものでもある。3つの基本的要素があり、1つには「私的所有が認められる」こと、2つには「契約(自由な合意)による財貨の交換が認められる」こと、3つには「法人格(独立自由な法的主体性)がすべての当事者になくてはならない」ことである。また、「私的自治の原則」もその大きな特徴である。ここには国家権力はほとんど介入していない。

 近代以前の中世の封建制社会が崩壊した後、ローマ法を継受して、大陸法ができた。1804年のフランスの「フランス民法典」では、「個人の自由・平等」「所有権の絶対」そして「契約の自由」がうたわれていた。

 だがその後、ブルジョワジーによる格差は広がり、労働者の闘争を経て、市民社会は大衆社会化する。社会的経済的弱者への配慮の必要も、ここで生じてくる。

 富の分配を修正するため、市民法の基本原理、すなわち「私的自治の原則」「所有権の絶対」「契約の自由」といったことがらは、制限されることとなった。これは、国民の権利や、経済性の上昇、政治の安定など、複合的な要因で成り立ったことである。ともかく、政府が介入することが可能となって、福祉国家が世界的に誕生することになる。

 現代の日本で福祉国家主義を象徴する法律だと考えられるのは、労働保護法、集団労働法、社会保障法の3つである。これらは、ワイマール憲法の影響もあり、生存権の思想から生まれた、「社会法」である。社会法は、社会の人々の社会権を守る。それぞれについて、以下では詳しく見ていきたい。

 まず、労働保護法(個別的な労働法または労働保護法の原理)であるが、具体的には、勤労権を保障(憲法27条1項を通して)し、労働基準を法定し、最低労働基準や最低賃金を定め、労働者の使用者には労働補償責任を課し、解雇保護を行ない、保険制度を導入し、雇用平等を明記する。これらは全て、労働者ひとりひとりの権利のためであり、そもそも使用者に対して立場の弱い労働者の権利を守るために、必要な法律である。

 次に、集団労働法(集団的労働法または労働団体権の原理)であるが、具体的には、労働組合法7条などを通じた不当労働行為労働制度等の制度で、労働者の団結を保護した上で促し、一定の組織強制(団結強制)を認め、団体交渉権を保証し、集団的取引の結果使用者と結んだ労働協約を使用者側が守るようにし、争議権を保障し、民事・刑事の免責も行う。これらは全て、労働者全体が不当な立場になることを防ぐための法律であり、使用者側と隷属関係に陥らないために、必要な法律である。

 最後に、社会保障法であるが、具体的には、借りる側の生存権を保障するために、契約の自由や所有権を一定において制限するといった制限借地借家法等を、挙げることができる。つまり法律の上では各個人を、経済的弱者としてではなく、社会のひとりの「人間」として扱い、その基本的人権を守る。これは、福祉国家のそもそもの機能に合致しており、社会において、さまざまな面で有効な役割を果たしている、必要な法律である。

 以上で本リポートは全てとなるが、今後の法の展開と福祉国家主義の重要性に今後とも着目しつつ、法学の学びを続けたい。

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