三枚のお札

更楽茄子

※ 混ぜ物注意



「もぅ修行ばかりで嫌じゃ!。たまには街に出たい!」


小僧さんがそう言うので、和尚さんは小僧さんに三枚のお札を持たせます。


「困ったことがあったら、この札に願いを込めて投げなさい」


そして小僧さんは山を下りて街を目指しましたが、途中で山姥やまんばに見つかってしまい追いかけられます。


「お札よ、ボクの代わりになっておくれ」


そう言って一枚目のお札を投げると、小僧さんそっくりな人影が現れましたが。


「こんなもの喰ろうてくれる!」


お札の小僧さんは一瞬で食い殺されてしまい、山姥やまんばはまだ小僧さんを追ってきます。


「お札よ、山姥やまんばの前に河を出しておくれ」


そう言って二枚目のお札を投げると、山姥やまんばの目の前に大きな河が現れました。




同時刻、少し離れていた場所で、結婚してからというものイチャイチャして全く仕事をしない青年「牽牛けんぎゅう」と「織女しょくじょ」という娘の間を割くように河が現れます。


「こんなもので俺の愛が止められるものか!待っていておくれ織女しょくじょよ!」


牽牛けんぎゅうはそう言うと川に泥で出来た船を浮かべると、対岸目指して漕ぎ出しました。




「こんな河、飲み干してくれる!」


山姥やまんばは河に口をつけると、一気に全て飲み干してしまいました。


途中でちゅるっと何か飲み込んだ気もしましたが、山姥やまんばは特に気にも留めませんでした。


そして山姥やまんばはまだ小僧さんを追ってきます。


「お札よ、山姥やまんばの前に火の山を出しておくれ」


そう言って三枚目のお札を投げると、山姥やまんばの前には大きな火の山が現れました。


「こんな火の山、吹き消してくれる!」


山姥やまんばは大きく息を吸い込むと、さっき飲んだ川の水を口から吹き出し、火の山を消してしまいました。




いきなり泥の船ごと山姥やまんばに飲まれてしまっていた牽牛けんぎゅうは、今度は勢いよく火の山へと吹き出され背中に大火傷を負ってしまいます。


そこへ牽牛けんぎゅうの身を案じて追って来ていた、白兎の背に乗った織女しょくじょが現れました。


「あらあら牽牛けんぎゅう様、火遊び(意味深)が過ぎますよ?。そんな悪い子には私が背中に火傷のお薬を塗ってあげましょう」


そう言うと織女しょくじょは白兎から受け取った塩を牽牛けんぎゅうの背に塗り込みます。


あまりの激痛にのたうち回る牽牛けんぎゅう、それを見る織女しょくじょ


だけど2人の顔はとても満足気で、絶叫が響き渡りながらもなぜか幸せそうでもありました。


そんな2人を天から見ていた織女しょくじょの父親の天帝は思いました。


「このままイチャイチャさせてたら娘はいつか婿を殺してしまう」


そう考えた天帝は、2人を天の川の両岸に住まわせ、年に一度しか会わない様にと釘を刺すのでした。




三枚のお札を使い果たした小僧さんは、なんとかお寺まで逃げ帰りました。


お寺では和尚さんが囲炉裏で餅を焼いています。


小僧さんは和尚さんに助けを求め、これから真面目に修行に励むことを条件に壺に隠してもらいました。


やがて山姥やまんばが寺に入って来て「小僧を出せ」と和尚さんに迫ります。


和尚がはそんな山姥やまんばを見ても臆する事もなく言います。


「その前にわしと術比べをしよう。山ほどに大きくなれるか」


和尚さんがそう言うと、山姥やまんばは「ああ、出来るとも」と言って、ぐんぐんと大きくなります。


感心した顔をしながらもまだ納得しない和尚さんが、更に山姥やまんばに言います。


「それでは豆程に小さくなれるか」


和尚さんがそう言うと、山姥やまんばは「ああ、出来るとも」と言って小さな豆になります。


すると和尚は、豆になった山姥を餅に挟んで食べてしまいました。


そして満腹になったのか、和尚さんは囲炉裏の前でうとうとと寝てしまいました。


山姥やまんば…」


壺からこっそり見ていた小僧さんは、山姥やまんばすらも食べてしまった和尚さんに恐怖を覚え、このままではいずれは自分も食べられてしまうのではないかと怯え始めます。


そして小僧さんは和尚さんの腹を割いて餅にくるまれていた豆(山姥やまんば)を助け出します。


そして代わりに和尚さんの腹に石を目いっぱい詰めて再び縫合します。




「─────おっとうっかり寝てしまったわい。山姥やまんばを食べただけあって満腹じゃ」


和尚さんは囲炉裏の火にあたり喉が渇いていたのか、ふらふらと井戸へと歩いていきます。


そして水を汲もうと身を乗り出したところ、お腹のあまりの重さに井戸の中へ転落してしまいます。


和尚さんの最期を見届けた小僧さんは、餅をはがし豆(山姥やまんば)を救い出します。


山姥やまんば山姥やまんば!」


いくら声をかけても豆(山姥やまんば)は返事をしません。


悲しみに暮れた小僧さんは、さよならと想いを込めて豆に口づけをします。


するとどうでしょう、豆は光に包まれたかと思うと、そこには美しい女性が立っていました。


「まさかわらわを助けてくれたのかえ…お前なぞ喰ろうてくれる(意味深)」


そして小僧さんと美しい女性となった山姥やまんばは、和尚の居なくなったお寺で二人幸せに暮らしましたとさ。



めでたしめでたし。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三枚のお札 更楽茄子 @sshrngr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ