神野王編

第44話 グレイ会長

 隕石が降るまで、あと二十日。

 そんな中、魔人研究学会の研究施設は、次々と破壊されていた。


「今すぐグレイ会長へ報告しろ。あと環境局にも報告だ」


 放たれる怒号。

 それらに伴い、今危機を目の当たりにしている者たちは流した汗が無駄だったかのように、ため息まじりに落ち込んだ。


 魔人研究学会の本部。

 そこでは、数々の研究施設が破壊されたという事実が届き、焦りと困惑に包まれていた。


「グレイ会長」


「どうした?」


 一人の男の呼び掛けに、白衣を着た男が振り返った。


「また研究施設が破壊されたそうです。しかもその場所では、実験の基盤となる研究が成功し欠けていた場所です。そこが破壊されたということは、もう


 魔人研究学会会長であるグレイ会長は、近くにあった椅子に座り込み、深く考え込む。


「困ったねー。これじゃあ隕石を破壊する方法がないよねー」


 グレイ会長は半ば諦め欠けたように口を紡ぎ、机に置いてあった実験の資料をつかみ取りのようにしてつかみ、それら全てを宙へと投げ捨てた。


「もう辞めだ。実験は終了でいいや。どうせ世界は滅ぶんだし、残りの二十日は遊んで暮らそうかな」


「グレイ会長。そんなこと、」


「冗談に決まっているだろ。少し考えるから、お前は実験に戻っていろ」


 グレイ会長は立ち上がり、屋上へと向かった。

 案の定、屋上には先客がいた。


「クロウド。悲報だ」


 真夜中に輝く一等星。

 その下で、カラスの羽根に包まれ、漆黒の相貌をした男ーークロウドは、屋上のど真ん中で静かにたたずまっている。


「悲報とは?」


「生憎、世界はほぼ確実に終わる」


 だがクロウドは驚きもせず、ただ腕を組んで小さく頷いた。その頷きが一体何なのかは不明であるが、クロウドは屋上の壁へ寄りかかった。


「で、それをカタストロ様に報告した方がいいか?」


「報告したところで、カタストロ様はどういう反応をするだろうな?」


「どうせあのウッダーとかいうガキはまだ何の成果もあげていないんだろ」


「ああ。だから正直頼りは魔人研究学会しかないんだが、結局邪魔をされ続けている。しかも噂によると、確か神野王とかいう奴が邪魔をしているらしいな」


 その言葉を聞き、グレイ会長は深いため息を吐いた。

 そして空に輝く一等星を見上げ、憂鬱にさいなまれる気持ちを抱え、グレイ会長は屋上へ入ってきた際の扉へと寄りかかった。


「なあクロウド。俺たちの仲間は結構死んだよな」


「ああ。ティラノ、ソード、ボルダー、他にも数えきれない程の仲間が死んでいった」


「そうだ。だが今、俺たちは世界に生きる全ての者とともに、死ぬことになる。さすがにそれは俺たちの野望が叶わなくなってしまうから避けたいことだ。だが、現実はあまくない」


 グレイ会長が吐いたため息に重ね、クロウドもそうした。


「まだ二十日もある。その二十日で全てを懸けるしかない、だろ」


「ああ。ではカタストロ様に伝えてくれ。研究は必ず成功させ、あの隕石を消滅させるほどの魔人を生み出すって」


「ああ」


 カラスの羽根が竜巻のように吹き荒れ、クロウドの全身を覆い隠した。カラス鳴き声がかすかに聞こえ、グレイ会長が一瞬その声が鳴る方へ目を逸らした瞬間、カラスの羽根とともにクロウドは消えていた。


「では研究開始だ」


 グレイ会長は白衣のポケットに手を突っ込み、雀のような足取りで階段を降りた。階段下にある扉を開け、グレイ会長は研究を再開しようとした途端、


「お前がグレイか?今からお前を殺す」


 悪魔のような角を生やした男は、グレイ会長へ悪魔にような視線を向ける。だが、グレイ会長の目にはそんなものなど映るはずもない。


 ーー散らばった研究員の遺体、血が吹き出たような痕、そして破壊された壁ーー


 それらを見て、グレイは白衣を脱ぎ捨てた。

 拳を握っては開いてを繰り返し、自らの力を再確認する。


「神野王。ここでお前を、殺す」


「やれるものならやってみるがいい。〈大災害〉幹部ーー地震のグレイ」


「神野おおおおおおおおおおおお」


 激しく騒ぎ、グレイは手のひらを空気に触れさせながら、神野王の体へと手を進めた。


「そう言えば言うのを忘れていた。クロウド、さようなら」


 そう言った神野王の背中からは、カラスの羽がざわざわ生えていた。

 その羽を見て、グレイは一人の男を想像した。


「この能力……」


 グレイは荒れ狂い、全身から衝撃波にも似た波動が空気中を流動する。その衝撃波に圧迫され、神野王は後方へと大きく吹き飛んだ。


「神野王。今からお前を、殺してやる」

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