第43話 世界最強の悪魔

「巨大隕石が降る!?なあ、それって具体的な日時とかは解るのか?」


 焦り口調で聞く僕を制止するように、ウッドマン博士は会話へ割り込む。


「その件についてなのだが、我々研究者が〈大災害〉の協力の下調べた結果、その日時は一ヶ月後だそうだ。遅いとは思ったが、それは相当速い。一ヶ月後以内では、もちろん神野の完全な複製体は創れない」


「では、このままでは、世界は隕石によって消失するのか?」


「ああ……。だがもし神野王の複製体を創れなくても、一つだけ策はある」


 僕はウッドマン博士が何を言おうとしているのか、瞬時に察した。

 確かに今はその策しかないのだろうが、僕はその策を受け入れることができるのだろうか?その答えは、その時が来るまでは解らない。


「ウッドマン博士。僕がそうなったとしたら、〈大災害〉の打倒は任せましたよ。きっとですが、僕はその策を受け入れたとしたら、もうこの世にはいないかもしれませんから」


 抹茶のような苦い笑み。

 そんな僕の笑みを見て、ウッドマン博士は思い詰めたような表情をし、そして小さくため息を吐いた。蚊ですら倒せないそのため息。そんなため息が流れる中で、僕は呟く。


「冗談ですよ。必ず実験は成功しますから、僕の出番はないでしょう」


 そう言って微笑み、僕は体を翻した。


 解っている。

 僕の複製体の実験をするとしても、環境アセスメントで魔人をいくら捕獲しようとも、結局は実験が成功することは少なくとも一年はかかる。


 すまないな。ウッドマン博士。


「神野。まだ希望が失われたわけではない。だから諦めるなよ」


「解ってますよ」


 その言葉が、まやかしだとしても。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 タイムリミットはあと一ヶ月後。

 その間で、僕は自分の為すべきことをしなくてはならない。


「し、侵入者だ!」


 門番の声が響いたのはたった一瞬。

 その直後、門番の頭部からは治が飛沫をあげる。


「お、お前は……!?」


「初めまして。世界最強の悪魔ーー神野王。今からお前らを、皆殺しにしてやる」


 男の狂喜に満ちた言葉が響き、その研究施設はせんべいのように粉々に砕けた。だがその直後、多くの兵士が駆けつける。


「六重丸将軍。あの男が、侵入者です」


 ばらまった瓦礫の山。筒抜けの天井から見えるのは、真夜中に孤独に輝く巨大な一等星。それを一度見上げ、男は顔を下げて六重丸将軍へと走り出した。


「お前!?」


 六重丸は男の顔を見て、深く驚いた。

 六重丸将軍の前にいたのは、あの忌まわしき悪魔ーー


「神野王!?」


「将軍。今日から僕は、"大災害"だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る