第18話 無意味な答え。

 僕の瞳からこぼれ落ちた涙を見て、その女性は嘲笑うような表情をする。


「やっぱお前、化け物じゃなくて人間だよ」


 その言葉の真意が何なのか、僕には理解できなかった。

 一体彼女は、何を知っているのだろうか?〈大災害〉とは、一体どんな組織なのだろうか?


 一方通行の問いを空に投げ掛け、僕はその女性の瞳を凝視する。

 感情の整理などつくはずもない。それでも今やるべきことが何なのか、それを僕は知っている。


「将軍。彼女の能力をコピーしました。これで船へ向かえますね」


 僕の切り替えの早さに驚いたのか、将軍は僕に目が釘付けになっている。


「神野。お前は何か心当たりはないのか?」


「いえ。どうやら彼女の言う通り、僕にはそんな記憶など一切ないらしいですね。まあでもそれが普通でしょう。僕は強くなんかない、ただの神野王なんですから……」


 どうしてか、僕の心にはぽっかりと空いた穴が、そんな何かが僕の胸にある。

 この感情を何と言えばいいのか解らない。僕は自分が、何者なのか解らない。誰か、僕が誰なのかを教えてよ。


「神野……。行くぞ」


 将軍は女性を肩で担ぎ、戦の案内の下で船がある場所へと向かった。


「女。お前の名前は何と言う?」


「言うかよ……」


 どこか遠くを見て言う女性を横目で見、将軍とともに船がある場所へとついた。

 森の中で異様に木が生えておらず、そこには大きな湖と、その湖とコンセントのように繋がれた川が静かに流れていた。湖には、一隻の船が優雅に漂っている。

 その船は五人ほどが乗れる大きさで、木製であるが鉄も使われており、燃料を搭載するような場所までもある。


 将軍は神野と早乙女、戦と謎の女性を船に乗せた。


「あれ?将軍は乗らないんですか?」


「戦。そいつらはまだ新人だから、護ってやってくれねーか?」


 将軍は覚悟を決めたかのような悲しげな笑みを浮かべ、戦に問う。

 戦は将軍の悲しげな笑みを見て、拳を強く握り下を向きながら、


「はい……。分かりました」


 将軍は刀を抜き、船の端を蹴った。その反動で船は進み、将軍から離れてしまう。


「将軍ー」


「神野。早乙女。短いながらも、最高の仲間だったよ」


 少し固いその笑みは、いつも笑っている将軍の笑顔ではなかった。麗しげな瞳を僕たちに見せないように、将軍はすぐに顔を背けた。

 遠くに行ってしまう将軍の背中を、僕たちは意味もなく眺めることしかできなくなっていた。


 僕たちがもっと強ければ……

 そもそも僕が早乙女を護れていれば……


 どうして僕たち民間環境軍は、こんなにも速く終わってしまうんだ。


 これが最後なんて……






 ふざけるな。

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