学校から自転車で五分足らずのところに、戦争の終わりが見える場所がある②

5月21日18時30分頃

平尾校の展望台警備に務めていた風紀委員のタダクニは暇を持て余していた。

「つまらん。俺も前線に出て戦いたかったな。」

隣にいるヒデノリにぼやいていた。

「だなー。なんでヨシタケたちが選ばれて俺たちが漏れるんだよ。完全に不公平だよなー」

外はすでに戦争が始まっているが、2人は……いや展望台にいる平尾校生徒はまだ知らなかった。そんな2人は遠くで頑張ってるであろうヨシタケを思いながら明後日の方向を眺めていた。

「まあ、ボス曰く向こうが大量に兵力を投入するから、それに対応する形でこちらの警備から何人か借りるって言ってたな。多少こっちの警備が薄くなっても問題ないってさ」

またタダクニはぼやいた。

「まあ、たしかに長岡校の奴らがこっちまで来れるのは無理だろ。今の展望台の警備が30人でもクソ雑魚長岡校なら余裕で持つな笑。そもそもそ前線にいる1万4千人の包囲網を突破するのは無理だろう。」

ヒデノリは高らかに笑っていた。

「おいおい、これがラノベとか漫画ならフラグで死んでいたぞ。フィクションじゃなくてよかっ……」

フィクションじゃなくてよかったな。そう言おうとした時、意識が遠のくのを感じた。

「おい、タダクニ!大丈夫か!」

そう言ったヒデノリも視界がぼやけていた。何がどうなっている。そう思っていた矢先人影が映った。

「すまない、保健委員を呼んでくれ。」

そう懇願したが、そこにいたのは長岡校の制服を纏った3人だった。

「後で呼んであげるわ♪その前に管制室はどこにあるのかしら♪」

それぞれガスマスクを装着していた。そうか展望台全体催眠ガスが充満しているのか。遠のく意識の中で銃を足に当てて撃ち、意識が飛ぶのを防いだ。

「おい、どうやって侵入した?」

息絶え絶えになりながらヒデノリは言った。

「迂回して平尾校方面から歩いて来たよ。多分、今回の大規模侵攻で各所いろんなところの警備が薄くなってたんだろうね。平尾校学区に余裕で侵入できたよ。」

分からない。うちの学区に侵入することは容易いと思うが、包囲網を掻い潜るのは無理なはず。

「ちなみに、長岡校方面に対しての警備は厚いけど平尾校方面は手薄だったからそっちから侵入させてもらったよ。」

ヒデノリは驚いた様子で言った。

「嘘だろ、そんな大回りして侵入したのかよ。普通だったら見つかるリスクが高いのに」

「普通なら迂回中、敵に見つからないことが前提になるんだけど、こっちは【危機回避】に特化したプロがいるからね。」

「今のは遠回しに馬鹿にされてるのでしょうか。」

清水は困った口調で言った。そんな呑気なことをしてる間にヒデノリは両手にサブマシンガンを換装した。

「お前らの好きなようにさせるかよ!」

そう言って乱射しようとしたところ篠宮がスタンガンで彼を気絶させた。

「さて、行きましょ♪」

そう言って自分たちは管制室に向かった。

管制室は最上階にあり、ヒデノリから拝借した鍵を使って中に入った。無事催眠ガスが充満していたので、中の人たちはぐっすり眠っており、この人たちが自由に行動できないよう縄で縛り拘束した。





生徒会室に一本の電話が来た。

「会長、平尾校の展望台から緊急電話です。」

「秘書くん、代わりたまえ」

平尾校の展望台から緊急通信が来るのは前代未聞の異例の事態に生徒会長は戸惑いを隠せなかった。

「お待たせした。わたくしが生徒会長である」

「ご無沙汰しております。依然生徒会室に押しかけたヤンです。」

聞き覚えのある声に生徒会長はハッと思い出した。

「あぁ、君か。なぜ平尾校の展望台から電話してるんだ。」

「その話しは後でします。その前に前線にいる部隊に展望台の奪取完了の報告と放送委員長にこちらの管制室を介して敵部隊にフェイク情報をどんどん送ってください。」

生徒会長は冷静に対応した。

「君たちを信用していいんだな。君たちはスパイの容疑がかかっているんだぞ。」

「自分たちがスパイだとして、こんな事しても逆に何もメリットないでしょ。」

少しの間沈黙が続いたが、生徒会長は意を決した。

「分かった。秘書くん放送委員長をこちらに呼んでくれたまえ。」

話しは通った。あとは味方の部隊が容易に鴻巣山、展望台を制圧できるよう誘導すれば終わりだ。ヤンはほぼ勝利を確信していた。

「やってくれたね」

その声は篠宮でも清水の声でもなかった。

「まさか裏でこんなことをしていたとは、どこまで私のキャリアに泥を塗るようなことをしてくれる。」

そこにいたのは愛染であった。

「愛染お前、前線で陣頭指揮してたんじゃなかったのか。」

「ええ、そうですよ。なので図書委員長に指揮を任せ、悪党から展望台を取り返しに来たんですよ」

「は?俺たちを捕まえに来たんじゃないのか?」

「君たちの身柄はどうでもいい。そんなことよりも我々・・の重要拠点を守りに来たんですよ。」

今の発言に理解が追いつかなかった。

「どうやら、意味が通じてないようなので、馬鹿でも分かるように見せてあげよう。」

そう言って愛染は一旦ログアウトし、そしてもう一度戻って来たがそこには愛染ではなく平尾校四騎士の1人、怪人二十面相と謳われた市丸がそこにいた。

「まさか二重アカウント持っていたのか。でもゲームのシステム上ありえない。」

そう言うと愛染いや市丸は答えた。

「普通は1人一個しか持てない戸籍を利用して戦学をプレイできるのだが、俺は市役所務めだから戸籍を売るやつなんて山ほどいる。その戸籍を使って二重アカウントを作ったのさ。まぁ厳密に言うと二重じゃなくて二十個アカウントを持っているけどな。」

「なぜ怪人二十面相なんて言われてるのか分からなかったが、そういうトリックだったのか。しかも演劇部スパイと違って本当にその学校の生徒としてプレイできるわけだから風紀委員の検査にも余裕で通過できるって訳か。」

「そうだ、まぁ他にもメリットがあるわけだが、これ以上話すと組合・・に関わることだから言えないけどな。」

組合?もしかするとこのゲームの裏で闇が広がってそうだな。そう思っていた矢先だった。

「すまないが、消えてもらおう。」

市丸はアサルトライフルを取り出しヤンに攻撃した。あいつ絶対すまないって思ってなさそうだな!そう思いながら机に身を隠し、AK47で対応した。

ここは当然敵地のど真ん中だから罠なんて一つもない状況であいつに勝つのは多分無理だ。篠宮か清水に応援に来てもらわないと。そう思い2人に繋いだが反応がなかった。

「2人なら来ませんよ。私の部下が今頃抹殺してる最中でしょうから。」

いよいよまずいな。こいつを俺1人で対処しないといけないとは

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