2限目 限りなく透明に近い進路希望①

「ふぅ、なんとか間に合った。」

敵が視界を眩ませてる間に篠宮を抱え茂みに隠し、救急キットで手当てを施した。怪我や疲労に加え最後閃光弾で意識が飛んだんだろう。本当なら篠宮を抱え本隊と合流したいが流石にすぐ後ろに敵がいる状況で逃げるのは難しい。そうして篠宮を茂みに身を隠したまま自分は敵の目の前に出た。

「おいおい、さっきはよくもやってくれたな兄ちゃんよぉ。」

流石に閃光弾の効果が切れ、全員目が慣れた様子だった。

「悪気はないんだ。許しくれないか笑」

こっちの引きつった作り笑いに相手も笑顔で返した。

「まだあの女すぐ近くにいるだろ?言ったら許してやるよ。」

「すまんな、仲間が本隊まで送ってる最中だよ。」

「嘘だな。だったらなんでお前も一緒に逃げない?足止めにしては意味がなさすぎる。」

見た目脳筋ゴリラに見えるが、かなり冷静な人だ。この状況だから多分何言ってもバレるな。

「なあ一生のお願いだから見逃してくれないか」

両手を合わせながら笑って誤魔化そうとしたが

「それは無理な相談だ。」

却下された。まあ、でしょうね。そうして相手が銃を向けた瞬間、ヤンは自分の目の前に閃光弾と音響弾を投げた。相手は自分に集中しているためモロにくらう人もいたが、やはりさっきの閃光弾もあってか警戒していた連中はとっさに腕で目を隠して防いだ。

「甘いぜ兄ちゃん。今からぶち殺し…」

そう言いかけた瞬間敵の真横にあった大木が突然倒れ敵のほとんどを潰した。さっきの閃光弾と音響弾はこちらに注意を向かせるためのフェイクで本命は大木を使って相手を潰す作戦だが、当然漏れる人もいるので、すぐにヤンは潰れなかった相手を両手サブマシンガンを換装させ一掃した。

「はあ、、、早く篠宮を連れてここを去ろう。」

そう独り言をぽつり言い、踵を返した瞬間だった。背後から殺気を感じた。

「おい、銃を下ろせ。」

まだ1人取りこぼしていた人がいた。おそらく声の感じから敵の班長だと分かった。

「すぐにぶち殺してもいいが、篠宮の居場所を吐け!吐けば2人とも捕虜にしてやる。」

「分かった。」

そう言い、銃を相手の足元のところに投げ、手を挙げた。

「まだアイテム持ってるだろ。全部出せ。」

用心深い。こちらが絶対反撃させないよう徹底していた。敵の班長はアイテムを全て没収した。

「ふん戦闘は狩り一緒だ。狩りをする時は必ず殺すまで徹底することだ。窮鼠猫を噛む、覚えておきな若造。」

そう言って敵の班長はヤンに近づこうとした時だった。班長の足元からワイヤーが現れ、そのまま体を吊られる状態になった。

「どういうことだ!」

「どうもこうも、昔からよくある害獣を捕まえるトラップですよ。武器を放棄する時自分の足元ではなくあなたのところに投げた時点で気付くべきでしたね。」

圧倒的にピンチの班長はなぜか余裕の笑みをこぼした。

「だが、ここまで追い詰めたわいいが君に武器はないだろ。すぐに追手を差し向けるよう連絡し……」

「それは困るなー」

ヤンはそう言って地面を掘ってRPGロケランを取り出した。

「おい、何でそんなもんがあるんだよ。」

「自分が丸腰になった時用で点々と武器を地面に埋めてるんですよ。」

そしてヤンは班長に向け照準を定めた。

「自分もあなたに一つ言っておきたいことがあるんです。狩りは獲物を狩る瞬間が一番不用心なんですよ。」




 平尾校との戦闘は右翼が善戦し、その後相手の中央前線の側面から攻撃することができた。その結果半包囲の形になり、その後相手が撤退。それから両校睨み合いのまま終結、そして翌日図書館でゲーム実況動画を眺めて今に至る。


ほんの数年前まで、こんな人生送るなんて想像しなかった。28歳まで郵便局配達で365日社畜の人生で、生きたいように生きれない人生を歩んでいたが、ベーシックインカムと模擬戦争学園バトル、通称“戦学”には頭が上がらない。ベーシックインカムはいいとして、戦学とは政府考案の擬似戦争シミュレーションである。昔から戦争は開発の母と言われているから世界各国が掲げているSDGSや我が国のムーンショット計画など様々な課題や目標があるが、それを達成、解決するためにこのシミュレーションを通じて先ほどの課題や目標のヒントを見つけようという魂胆だそうだ。お偉いさんの考えることは凡人の僕からすると到底理解が及ばないけど、世間ではこのゲームのおかげで退屈しのぎにはなってるみたい。実際このままこのゲームの中で人生終えてもいいかもなんて思い老けていたら通知が来た。

『校舎裏に来て。』

こんなラブコメでしか見たことがないテンプレの文章を見てとうとう29歳童貞の自分にも春が来たと舞い上がってたかもしれない。送信元が篠宮以外だったら。。。

律儀に校舎裏に来たら篠宮が腕を組んだ状態で待っていた。

「この間もそうだけど、よくもやってくれたわね!」

「なんのことかな?」

「とぼけないでくれるかしら?あの閃光弾前から仕込んでたわね?」

「僕がやった証拠はあるかい?」

「まだ森に隠してた閃光弾からデータを見たら所有者は君の物だったわよ!」

しっかり論破された。

「結果的に君を助けたけど、もともと味方の部隊が容易に戦場から撤退できるように事前に仕込んでおいただけだよ。」

今言ったのは半分事実でもう半分は自分がいつでも危機的な状況から脱出できるように仕込んだためでもあるが、そこは当然伏せた。

「あなたの弁解はどうでもいい。問題はあなたに借りが2個もできたということよ!」

篠宮はビシッと人差し指を自分に向けた。

「君に貸しを作ったつもりはないから忘れてくれ。」

「それは無理ね。あなたに二度も助けられたという事実は消えないから2つだけお願いを聞くわ♪」

強情なひとだな。まぁ適当でいっか。

「じゃあまた閃光弾と音響弾作ってほしいな。」

「いつも作ってあげてるでしょ?なんか恩を返した気がしないから別のにして!」

本当にめんどくさいなー

「んー、思いつかないから、また今度言うよ。」

「じゃあ、ご飯奢ってあげる。あなた現実世界リアルはここの近く?」

「そうだけど、別にいいよ。あと、わざわざ現実世界で顔を合わせるの嫌なんだけど…身バレしたくないし。」

「別にあなたの正体はどうでもいいわ。借りさえ返せたらいいの♪」

滅茶苦茶だがこれ以上のやりとりもめんどくさいのでそれで手を打った。

「19時に食堂集合ね。」

そう言って彼女はログアウトした。

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