第3話 召喚できたよ

≪汝、勇者アルレッキーノ、我が呼び声に応え召喚せよ≫


 岩壁に囲まれた石畳の間に金の髪にどこかの姫君が着るようなドレスをまとった少女の声が響く。少女の眼前には青白く輝く魔法陣が展開されその中央には真紅の全身鎧が横たえられていた。

 しかし、呼び声に応じるものはいなかった。2度、3度と同じ文言を少女は唱えたが魔法陣は淡い光を放つばかりで一向に何者かが現れる気配はない。


 とうとう、少女は魔法陣の上に座り込むとポロポロと涙を流し始めた。


「お願い出てきてよ。あたし、まだ死にたくないの」


 ポタリと一滴の涙が魔法陣に触れた瞬間、淡く光っていた魔法陣は輝きを増し、辺り一面を眩い光が覆った。光が弱まりあたりに色彩が戻り始める。色彩が戻った時には魔法陣の中央に横たえられていたはずの真紅の鎧が佇んでいた。


「勇者アルレッキーノ、応じてくれたんですね」


 嬉しそうに声を弾ませ真紅の鎧に向かって駆けよる少女を俯き加減だった鎧の蒼い左目と紫の右目が睨みつけた。


『お前か!ひとが気持ちよく死んでたのを叩き起こしたのは』


 突然の怒声にびくりと少女がその場で固まる。暫くするとフルフルと身体を小刻みに震えさせ、目からはポロポロと涙を流し始めた。


「ヒッグ、いきなり怒鳴ることないじゃないですか」


 これには真紅の鎧も狼狽えた。


『…お前が勝手に起したんだろうが』


 ばつが悪そうに真紅の鎧は後頭部を掻きながらぼやく。

 暫しの間、岩壁の間には少女のすすり泣く声が響いた。


 先に気まずくなったのは真紅の鎧の方だった。すすり泣く少女の頭に手を置くと


『その、なんだ……怒鳴ったのは悪かった』


 と少女の顔とは明後日の方向を見ながら謝罪の言葉を放つ。それに対して少女は目元に手を当てたまま


「それ、謝ってません」


 と抗議を示した。『あ゛ぁ゛』と低い声が鎧の口から洩れるとまた少女の体が震え、すすり泣きが再開された。

 再度、流れる気まずい雰囲気に耐えられなくなった鎧は少女の頭から手を離すと深く頭を下げ謝罪の言葉を述べた。


『怒鳴った俺が悪かった。すまない』


「真摯に謝ってくれれば良いです」


 と少女は謝罪を受け取りやっと泣き止んだ。

 やれやれと安堵した鎧は岩壁にもたれ座り込むとはあとため息を吐いた。

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