第2話 死にたがり勇者アルレッキーノ

 勇者アルレッキーノ。彼はたぐいまれなる身体能力と剣術の腕をもって一国の勇者となった。しかし、英雄になってもなお、彼には生きる理由と意味がなかった。

 故に彼は死を望み、国王から下された赤き邪竜の討伐を嬉々として受けるのだった。


 今、アルレッキーノ達は赤き邪竜の眼前にあった。恐怖で表情をこわばらせ、口を固く結ぶ仲間達を余所にアルレッキーノはその口角を楽し気に上げた。これで願いが叶うというように。

 激闘の末、赤き邪竜は討たれた。しかし、その代償は…


「しっかりしてください、アルレッキーノ」


 石畳の上に横たわる邪竜の血によって真紅に染まった鎧を身にまとった男の傍らには炎に焼かれ煤けた白い法衣をまとった金の髪の女が懸命に癒しの術を施しながら声をかける。

 柔らかな光が風穴の空いた男の腹を包むが、そこから流れる赤い液体は止まることを知らなかった。


「止まって、止まってよ。このままじゃ……」


 涙声の女に弱々しく尋ねる男の顔はどこか満足げだった。


「俺は死ぬのか?」


 その問いに女は大きく首を横に振ると力強く答える。


「絶対に死なせません」


 男の腹を包む光が一層輝きを増す。しかし、それでも流れ出す命は止まりはしない。

 多くの血を失い、体温が下がってきたのか男の体がブルリと震える。肌も既に血の気を失い青白くなっている。


「何で生かそうとするんだ?」


「生きていれば、いつかは貴方の生きる理由が見つかるかもしれないじゃないですか」


 女の答えに男は僅かに口角を上げると少しばかり残念そうに


「見つかると良いなぁ」


 そう言うと男は静かに目を閉じ、その目は二度と開くことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る