第八転-命を削る覚悟/白い着物の少女。
『元よりワシは命を削る覚悟じゃ、しかしこれから先は君の協力無しでは突破出来ぬ』
「協力つったってこれ以上何しろってんだ……俺はただの
『……』
「正直今だってさ、安請け合いしちまったことを後悔してんだ……情けねえだろ? あの化け物やそれに襲われた人々の姿を見て震えが止まんねぇんだぜ?」
『アラ太……』
「世界を救うだか何だか分からないけどよ……とてもそんなドデカイことをやれるような器なんかじゃねえんだ。俺は今まで誰からも必要とされず死んだように生きてきた……それが俺の
『君が自分の価値をどう見定めようとそれは君の自由だ。ただ君の値打ちは君だけが決めるものではない。ワシは初めて出会ったあの時から君の潜在能力を高く評価していた。それは一重に君ならワシと一緒に"
「なに言ってんだよ……あの時だってたまたま俺が買った鉛筆が
『確かに君とワシが出会ったのは偶然じゃ。しかし万物の因果が運命の支配下にある以上あの出会いは定められたものだったとワシは思う』
「出会うべくして出会ったとでも言いたいのか?」
『その通りじゃ』
「……っ」
『例え世界中の誰もがアラ太のことを認めずともワシは君の価値を認める! もしアラ太が誰からも必要とされなかったとしてもワシは君を選び続ける! もう二度は言わんぞ! "
「……っ!」
「アァァァァ! イライラするぜ! いつまでもベラベラと話し合いやがって! こっちは腹の虫が疼いて! 疼いて……っ!! 気が狂いそうなんだよォォォォォォォォ!! やれハングリーグリズリー! 奴らを喰らい尽くせェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
『グォォォォォォォォ!』
「命を削る覚悟か……そんなもん久しく味わってなかったなぁ」
何のやりがいも無く意味もなく時間を捨てるように毎日を過ごして来た俺にはおおよそ必要のないものだったしな。
それにこんなクズみたいな俺の力を必要としてくれる人がまだいたことにも驚きだ。
ん? 人じゃなくて神様? 鉛筆? まぁこの際どうでもいいや。
どうやら就職先が決まったらしい。
海堂アラ太、再就職先は"
「いいぜノッてやるよ
ペンシリストだ。
『あぁ行くぞ! 今日からワシが君の愛棒だ!』
『グォォォォォォォォ!』
実体化したハングリーグリズリーが迫ってくる。
動きは遅いが1発でも食らえば一溜りもねえ。
「
『よし! 手の平に描いた五芒星を丸で囲め!』
「って丸ゥ!? だからもうお絵描きしてる場合じゃ!」
『いいから言う通りにせんか!』
『グォォォォォォォォ!』
「っ!? ちぃ……っ! うぉっ!?」
『グッ……アラ太には指一本も触れさせぬぞ』
ハングリーグリズリーの攻撃をコロコロールドラゴンに扮した神様が受け、その隙に俺は星の頂点を丸で囲む。
フリーハンドで描いたにしては寸分の狂いのない綺麗な丸だった。もしかしたら鉛筆にそういう特殊な力があるのかもしれない。
「よし! 出来たぞ!」
『我が神名!
「馬鹿な! ここは俺様の
実体化したコロコロールドラゴンとコロコロ鉛筆そして俺の掌の紋章と共鳴するように光輝き、その光が
先ほどまで山々に囲まれた村が広がっていた景色が光の影響を受け、白い雲の上に浮かぶ巨大な社と鳥居のある神社が現れた。
「これが神様の……
『そうじゃ、これがワシの
「貴様……気でも違ったか? 異なる
『そう、お主の言う通り存在出来る"
「ククク……無論取り込まれるのは貴様だ
『グォォォォォォォォ!』
ハングリーグリズリーがコロコロールドラゴン目掛け巨大な爪を振りかぶった。
しかしコロコロールドラゴンは先程とは打って変わって攻撃も回避も防御の態勢も取ろうとはしなかった。
「な、なんで動かねえんだ神様! このままだと直撃だぞ!」
ハングリーグリズリーの鋭利な爪と牙がコロコロールドラゴンの目前まで迫っていた。
「ハハハハハハハハ! 俺様の糧となれ
「神様ァァァァァァァァ!」
ハングリーグリズリーの攻撃はコロコロールドラゴンの体を貫通した。
『そうはいかんな』
「えっ?」
「なっ!? 何故だ!」
「何故攻撃が当たらずに身体を擦り抜ける!?」
否、ハングリーグリズリーの攻撃はコロコロールドラゴンの体を透過した。
何故かダメージはない。まるで実体の無いホログラム映像のようにも思えた。
「か、神様? 平気なのか?」
『おう……ピンピンしとるよ! ほぉれい!』
コロコロールドラゴンもとい神様は蛇のように長い体をクルクルとトグロを巻く。
『やっぱり霊体と違って動ける生身の身体とはいいもんだのう! おほほほほほーい!』
「……」
緊張感無えなぁおい……。
「何故だ! 何故だ! 何故だ何故だ何故だァァァァ!
『妖術か、少し違うな。これはワシの
「特殊能力なの? これ?」
『"
「同じ"
「
『グォォォォォォォォ!』
暴れ散らす"
『無駄じゃ、
「アァァァァ! 食わせろォォォォォォォォ!」
『グォォォォォォォォ!』
「で、でも神様……それじゃ俺達も"
暴力行為が許されないということは俺達もまた
妖怪退治どころではない。
もし全ての話が本当ならこのままでは"
『案ずるな、無論例外もある』
「例外?」
『協約と法則の上で行われる聖戦であればその限りではない』
協約と法則の上で行われる聖戦……小難しいこと言っちゃいるが要するに。
「お互いの合意とルールの元で行われる決闘ならOKってことか?」
『左様、やはりアラ太は察しが良いな。さてと……聞こえていたじゃろう"
「いいだろう……どの道このままじゃ埒があかん。俺様も貴様も共倒れなどしたくはないからな。ただ決闘の内容はどうするつもりだ? 貴様に有利な決闘ならこっちから願い下げだぜ」
『そうだな……では鉛筆バトルでどうかの?』
「鉛筆バトル……だと?」
『ワシもお主も今はコロコロ鉛筆なる現代の玩具へと姿を変えた。ならば当然決闘もそれに準じたものであるべきではないか?』
「……」
『どうじゃ、悪い話ではなかろう?』
「いいだろう、その決闘受けて立つ」
「おいおいおい正気かよ神様! 相手は時価30万円は下らない激レア鉛筆だぞ! コロコロールドラゴンじゃどう考えても不利だって!」
『何も強さのみが鉛筆の価値に直結しているわけではあるまい。希少性や芸術的価値も考慮しての価値と考えるのが自然じゃ』
「確かにそうだけどさぁ! それ込みでも俺はバトルキャップとかも持ってねぇしまともに戦える準備が!」
『神が賽を投げることは許されない……だからこそ君は賽を投げることだけに集中するのじゃ。出目の結果がどうなるのかは
「俺の……思いの強さ……?」
『そうじゃ! だからありったけの思いを鉛筆に込めることだけを考えろ! その思いに応えるのは
「分かった……っ! 勝負だ"
「貴様らの肉! 骨! そして……魂!! 全て噛み潰し俺様の糧としてくれるわ!!」
『グォォォォォォォォ!』
***
『おかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためお繋ぎ出来ません』
ピッ。
「おかしいなぁ、おじさんの携帯に繋がらないんだけど」
オレの通った道には神様屋らしき出店は無いし、それっぽい人物ともすれ違わなかった。
全く……電話一つ出られないなんてダメなおじさんだな。
ホントに元社会人かよ。
「……」
***
「万が一神様屋を見つけても一人で行くんじゃねえぞ。見つけたら電話で俺に知らせろ。それでも間に合わなくてヤバいと思ったら迷わずに大声で叫べ。すぐに駆けつける」
「どうして?」
「あ? お前が心配だからに決まってんだろボケ」
***
「……っ」
柄にも無くあんな格好つけた癖にさ……。
でもおじさんはおじさんなりにオレのことを思ってくれてたんだ。
胸の中がポカポカする。安心する。
オレにも父ちゃんや兄ちゃんがいたらこんな気持ちをいつも持っていられたのかなぁ。
『真東京FMが午後6時をお知らせします』
【PM6:00】
街の雑踏に混ざり何処からかラジオの放送が流れてきた。
携帯で改めて時刻を確認すると午後の6時になっていることに気づく。
既に日は沈み路地裏には街灯も少なく薄暗くなり始めていた。
どうしよう……全然おじさんに連絡がつかない。
おじさんは大人だし大丈夫だとは思うけど……。
何故か胸騒ぎがしたオレは来た道を戻り最後におじさんと別れた道まで戻った。
「あれ? どうして道が……無くなってるんだ?」
暗く舗装のされていない道を携帯のライトで照らしながら戻っていくとなんとさっきまであったはずの道が消えていたのだ。
「え? なんで? 有り得ないでしょこんなこと……」
まるで最初からそんな道なんて無かったかのように路地裏は一本道だった。
動悸が止まらない。
おじさんが道ごと消えた。そうとしか思えない異常な光景だった。
『おかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためお繋ぎ出来ません』
「……っ」
ピッ。
『おかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためお繋ぎ出来ません』
「……っ!」
ピッ。
何度も電話を掛け直したがとうとうおじさんに繋がることはなかった。
「くそ! なんで出ないんだよ!」
ふいに『神隠し』という言葉が隙間風のようにオレの脳内を掠め横切っていく。
突然なんの脈絡もなく突然人が消えるということは実際そんな珍しいことではないということを前にTV番組で見たことがあった。
特にここ何ヶ月かの間に神隠しに合う人間が急増しているらしいとニュースでも話題になっている。
もしおじさんがそれ関連の事件に巻き込まれたんだとしたら。
もうおじさんとは会えない?
「駄目だ……」
駄目だ駄目だ駄目だ……そんなの嫌だ!
おじさんが居なくなったらまたオレは……ましろはひとりぼっちになっちゃう。
もう一人ぼっちは……嫌。
おいていかないで。
ましろを一人にしないで。
「え?」
「……」
ふいに背中に視線を感じ振り向くと古びた白い着物に花飾りをした白髪の少女が自分の後ろに立っていた。
背丈は年は自分と同じくらいだが、学校でも見かけたことはない。
隣町の学校の女子だろうか。
「だれ?」
「……」
少女は何も答えない。
「どこからきたの?」
「……」
やはりと言うべきか少女は何も答えずただじっと真っ直ぐ視線をこちらに向けて来た。
まるでビー玉のような澄んだ眼をしている。怒っているのか笑っているのかもその瞳から伺い知ることは出来なかった。
「……」
少女は着物の袖に手を入れると一本の鉛筆を取り出し、受け取れと言わんばかりにこちらに差し出した。
コロコロ鉛筆かと思ったが違う。
絵柄も何も書いていない真っ白な鉛筆だった。
「この鉛筆……くれるの?」
「……っ」
少女は小さくうなづいた。
「あの……えっと……ありがとう」
あまり同年代の友達と喋り慣れていないせいかしどろもどろな言い方になってしまった。
少女は特に意に介するような様子も無かったため、やや不思議に思いながらも鉛筆を受け取ろうと少女の妙に冷んやりとした手に自分の手が触れた瞬間だった。
突然鉛筆が淡白い光を放った。
「わわっ……なんだこれ……っ!」
「……」
光は更に激しさを増していき、視界を奪っていく。
徐々に気が遠くなる感覚を覚えた。
力が抜けていく……力を入れようとしてもまるで穴の空いた風船のようにまた力が抜けていく。
「え?」
少女の頬に星形に光り輝く紋章のようなものが見えた。
さっきまでは無かったはずだけど。
『路地裏』、『少女のような外見』、『鉛筆』、そして『頬に星形の刺青』。
おぼろげな意識の中でわずかな手がかりをかき集めある結論を紡ぎ出した。
この少女がもしかして。
「神様……屋?」
「……っ」
何故か悲しそうに目を曇らせる少女の姿を最後に自分の意識は闇に沈んでいった。
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