第5話 俺じゃなくて世界樹がチート


明らかに衰弱していた毛玉が、世界樹の葉一枚で劇的に回復した。


『ほら、言っただろう』


もしかしてもしかしなくても俺じゃなくてじいさん(仮)がチート....?

俺は今結界から出れない、精霊術は扱いきれない、知識もない....etc


『そう悲観的な顔をするな、我はユグにしか、おぬしにしか力を与えん。我の力はユグの力だ』


そんなに顔に出てた?

どうやらじいさん(仮)は気遣いまで出来るらしい。


「じいさ....世界樹さんは、........じゃなくて!先にこの毛玉洗ってやんねぇと」


世界樹の呼び方をどうしようかと聞こうとしたものの、ベッドに丸まった毛玉が視界に入り、優先事項を思い出す。

だが思い出したものの、俺はこの近くに湖があるかも知らない。蔦で連れていくには不便だし、俺がいかないと洗えない。


「なぁ、この毛玉洗ってやりたいんだけど...俺の精霊術って水とか出せたりする....?」


『ああ、勿論。だが世界樹の精霊が作り出す水は少しばかり特殊だぞ』


そこんところ詳しく。出来たら短めに。


『我は元はと言えば生命の樹、命を生み出すための樹だ。人が勝手に認め、その認識が広まってしまったが故に外的要因で世界樹となったのだ、此処まで分かるか?』


「生命の樹ってあれだろう?命の木とかいう、」


その類いは前世で好きなジャンルだったからかいつまんでなら知ってる。

だが、生命の樹だからなんだと....


「あっ、分かった。」


生命の樹になる実を食べると人は永遠の命を得られる。

そして、実ではないがその樹の精霊が樹の力で水を生み出せば........


『理解が早いと助かる。そう、今おぬしが考えた通り、生命の樹である世界樹の精霊が生み出すものは全て生命に通じておる。安易に精霊術で湖を作ろうものなら入るだけで永遠の命を得ることも容易い湖が出来てしまう』


「それを人族にバレたり与えたりしてしまうと俺の立場がかなり不味い、と。扱いに困るね、世界樹の精霊術ってのは」


『我もそれは同意だな。争いの種にしかなり得ない力を持つ樹を、神が何を思って我を生み出したのか全く分からぬ』


声だけのじいさん(仮)からため息からため息が聞こえた気がした。



俺の出す水が特殊なら毛玉を洗ってやれないなぁ、とぼやいていると再びじいさん(仮)が口(があるのかはしらないけど)を開いた。


『ユグ、そういえば浄化された雨粒なら樹の上にたんと溜まっておるぞ。イツキが生前作った仕組みだ』


「浄化された雨粒....?」


『我の葉や枝を加工して我の上にイツキがため池を作ってな、触れるだけじゃ微量にしか効果の無い我の一部を上手く活用して雨粒を浄化しおった。切り離された我の一部は特殊な保存をしない限りすぐ力を無くすが、それまでも利用して作られたため池...中々に綺麗だぞ。ほれ、蔦に命令すれば案内してくれるだろうから自力で上がれ』


「分かった」


蔦を動かすことには馴れてきたが、なにぶん"命令"という形は初めてだ。

念じるよりもお願いするように、力を込める。


俺と毛玉をため池に連れていってください。


すると外からゆっくりと動く蔦に胴を掴まれ、床から足が離れた。

案内ではなく本当に連れていってくれるらしい。


わりと重々しくぎしぎしと音を鳴らしながら俺と抱えた毛玉を運び、どれくらいたったろうか。多分1分とちょっと過ぎた頃、樹の上に作られた広場のようなところに下ろされた。

樹の上、というよりも自然の植物園のような風景でいっぱいの広場の中心にじいさん(仮)の言っていたであろうため池を見つけ、ゆっくりと毛玉を水に浸けていく。


「....毛玉、お前さん綺麗な毛色してるなぁ」


徐々に汚れがとれていき、完璧に汚れが落ちた毛玉は青みがかった銀の毛をしていた。

洗ったことで毛が濡れ、そのおかげと言うべきか体の形が分かりやすくなり、何となく毛玉の種類も理解した。


「じ...世界樹さん、毛玉の種族は狼かなにかか?」


『ああ、その通り。見たところ銀狼の獣人族だな。........あとその世界樹予備を止めんか、堅苦しい。我はロト、じいさん呼びは構わないが世界樹さんは止めてもらおうか』


「分かった、あー....ロトじい。」


『うむ、それでよい。』


満足したような声からするに世辞や建前ではなく普通にこの呼ばれ方が好ましいとみた。

その後、広場を見ていたい気持ちを押さえて俺は濡れた毛玉を抱え、蔦を使って部屋へと戻る。


後からでも見放題だし今は毛玉優先な。


部屋に無造作に詰まれた布の山から適当な布を一枚取り出して毛玉を包み、わしゃわしゃと拭いていく。

やっぱりこの毛色は綺麗だなぁ、獣人族とは言ってたけど人の姿になれるんだろうか。幼体だし子供なのかもしれない。

なんて考えながら毛玉を見下ろせば、緑のまじる灰色の目と俺の目が合った。


「....っわふ」


毛玉が一鳴き。


「........起きた?」


どうしよう。

よく考えればこの子は起きたら何故か見知らぬ何かに体を拭かれてるのか。誘拐とか思われてたら不味くないか?えっ、今俺不審者?

やばい、と思考をぐるぐると回して拭くのを止めた俺の手に、毛玉は頭を押し付ける。


「え、えっと、大丈夫?死にかけてたから俺....というかこの樹が助けたんだけど、その、痛むところとか無いか?あれ、まず俺の言葉わかる?」


我ながらきょどりすぎた気はする。皆まで言うな。

困惑と焦りであたふたする俺を静かに見詰める毛玉は再度俺の掌に頭を押し付けてきた。


「....撫でろってこと?」


ゆっくりと馴れない動きで頭を撫でてやれば、満足気に目を細める毛玉。正解か。

安心し、毛玉の頭を時折もふりつつ撫でる時間は至高だった。物凄く毛並みがいい。

犬とか猫とかかわいい動物飼ってみたかったんだよな、昔からペット禁止のマンションで暮らしてたから飼ったことはないけど犬猫その他もふもふは好きだし。


「毛玉のことを飼えたら......いや、獣人族なら飼うのは駄目か」


ペット欲しい。

異世界生活する上で寄り添ってくれる女の子より先にペットが欲しい。


うだうだと毛玉を撫でながらぼやく俺に、ロトじいが声をかけてきた。


『飼いたいのなら飼えばよかろう、お前が触れられるということは既にそやつはユグの所有物ぞ。何、まさかお前知らずに使役したとは言うまいな?』


知りませんでした。


聞けば、人が作ったものや人に触れない俺が触れるのは自然のものと魔力で作られたもの、そして身内、使役すると決めたものだけらしい。幹の中に入れるのもしかり。


『全く...死にかけ故咄嗟に使役に反応したとは言え、そやつもユグに多少は気を許しておるようだし我が口を出すことではないが....易々と世界樹に他人を入れるなよ。特に人族はよく考えてからだ』


「何かごめんなロトじい。次からはしっかり考えてから助けるようにするよ」


ほんとすまん。

触れる時点であれ?とは思ったけどまさか使役してるとは思ってなかったんだ。


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今日のまとめ


精霊術は高度な治癒力があるらしい

毛玉は狼獣人

じいさんの名前はロト

毛玉のテイム完了(無意識)


※世界樹のことを旧約聖書の生命の樹だとユグは勘違いしていますが似て非なる樹です

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転生したら世界樹の精霊でした~とりあえず人間目指して頑張ります~ leito-ko @syulei

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