私、前向きになれたかもしれない!

私が今、ここにいる意味。


改めて考えてみてもまだ分からない。


人には見えないものが見えること。


あまり良いものではない。


相談したくても、誰に相談して良いのか分からないし、助けを求めていいのかも分からない。


時には迷うことばかり...。


でも、日々は過ぎていく。


今は、前に進むしかない。



******************



大学を卒業しても仕事が決まっていなかった私。


ハローワーク(職業安定所)に仕事を探しに行くことにした。


受付にいき、仕事の検索をするにはハローワークカードというものを作る必要があった。


「番号の紙をお持ちください。順番になりましたら、番号でおよびします。その際、こちらの書類をご記入下さい」と、書類の置いてある机に誘導された。


私の個人情報や持っている資格。

探している職種などを書くようだった。


何とか書類を書き終え、順番待ちをする椅子に座った。


すでに数人の人が順番を待っていた。


(みんな仕事を探しているんだろうな?)


仕事は選ばなければ、いくらでもあると聞くけど...そんなに甘いものでも無さそうだ。


歳を重ねている人や、私と歳が近そうな人など、様々な方がハローワークを利用していそうだ。


一つ不思議だったのは「ザワザワ影」をここては見かけなかった。


何か少し安心した。

仕事がなくて、ヒヤヒヤしながらハローワークに来た私なのに...


「26番の方」


(あっ、私だ!)


呼ばれた方に進むと、番号が出ている机に担当者が座っていた。


「本日はどうされましたか?」


担当者は年配のおじさんだった。


私は、ハローワークに仕事を探しに来たことを伝えた。


「はい、登録が終わりました。こちらのカードを受付に提示すればハローワーク内のPCを使って求人検索が出来ますよ。あと、今は自宅からネットを使って検索も出来ます。その時もこのカードの番号が必要です」


と教えてくれた。


(自宅から求人検索が出来るなんて便利な世の中だ)と改めて思った。


早速、PCで求人検索をしてみた。

自分の年齢を入れて、希望する場所や時間、職種など複数の情報を入れると該当する求人票が出てくるようだ。


(沢山の求人票が出てきたけど、どこを見たらいいのだろう?)


給料?休み?

仕事内容?


見れば見るほど、頭が痛くなってきた。


もうダメだ。


(今日は帰ろう...。)


少し肩を落として、ガッカリして家に向かう。


ハローワークに行けば簡単に仕事が見つかると思っていただけにショックは強かった。


いつもは、おじちゃんの側に見えるザワザワ影が私に覆いかぶさっているのではないかと思った。


もちろん、影の姿は見えないので気のせいなんだけど。



とぼとぼと、歩く私。


様々な人とすれ違う。


ニコニコして元気そうな家族。


思い悩んでいそうな青年。


散歩を楽しんでいそうなおばあちゃん。


(表情を見ても、こんなにも違うんだ)


この時も、影は見えなかった。


(ずっと影が見えなければ、いいのにな)



******************



家に帰ると

「おかえり!」

と、おじちゃんが声をかけてくれた。


「ただいま」

と、返事すると


「何だ、元気ないな?」

と、私の心配をしてくれた。


「仕事が見付からないよぅ...。何をしたらいいかも分からなくなってきた」と正直に伝えた。


「何だ、そんなことか。今に始まったことじゃないだろ。仕事なんざ、そのうち決まる」といつものおじちゃんらしく話してくれた。


正直、少し心が軽くなった。

逃げている気もしたが、おじちゃんの言葉はありがたかった。


おじちゃんは、高齢者施設の送迎の運転手をしていた。


朝の3時間と夕方の3時間から4時間。


土日も必要とされているので、休みは基本平日みたいだ。


たまに、土日にも休めるみたいだけど。


ハイエースと呼ばれる、大きな車を運転している。


バスには同行する福祉職員もいるらしい。


車椅子もリフトを使い、車に乗ることが出来るそうだ。


(おじちゃん、すごい仕事をしているなぁ)


おじちゃんは、根が明るいので高齢の方々からも人気があるらしい。


運転中は、沢山の方々と笑いの渦をおこしている...らしい。


そういえば、送迎中は事故を起こしたことはないそうだ。


家にいるときは、よく転んだり。

足の小指をカドにぶつけて痛がっているのに...。


おじちゃんは、夕食の準備をしている。

不思議なことに、おじちゃんは料理が上手だった。


自分で見様見真似で、作っていると言っているが、ある意味天才だと思った。


「さてさて、出来たよ」


おじちゃんが料理を持ってきた。


私は一言。

「あれっ?カレー?」


おじちゃんは

「うん、カレー」


(カレーなら、私も作れるよ)

私がさっき、ベタ褒めしていた気持ちを返してよ!


でも、おじちゃんのカレーは美味しかった。


流石だなぁ。



******************



私はおじちゃんにずっと話せなかった「ザワザワ影」のことを話してみることにした。


「実はね...おじちゃん。私ね...」

と話し出すと、カレーを食べていたおじちゃんは


「何だ!ついに結婚か?相手は誰だ?」とワクワクしたかので、おじちゃんは答えた。


「ち、違うよ!そんな人いないよ!」と慌てて否定した。


続けて

「おじちゃんは良く転んだり、怪我をしやすかったりするでしょ。その時、高い確率でおじちゃんの近くに変な影があるの」と話をした。


おじちゃんは

「えっ?そうなの!俺がドジなんじゃないの?」と答える。


私は

「おじちゃんはドジだけど、さらにその影が悪い効果をもたらしているかもしれないの。その影を私は見えるんだよ」

と、伝えた。


その影に関して私がわかることを、おじちゃんに話した。


おじちゃんは

「へぇ~そうだったんだ。知らなかった。早く教えてくれればいいのに。人が悪いなぁ」


えっ?

そんな...軽い感じ?


私は驚いた。


「ビックリしたりしないの?」

私はおじちゃんに聞いた。


「だって、そんな便利な機能!素晴らしいじゃない。俺の残念なドジが減るかもしれないゾ!」

と、超前向きな答えが返ってきた。


私は唖然をくらってしまった。


固まっている私に

「これからは、影が見えたら教えてほしい。影の悩みもあれば話して欲しい。可能な限り、協力するよ」と話し、おじちゃんはカレーを再び食べ始めた。


私は本当に嬉しかった。


きっと、今まで食べたカレーの中で今日のカレーが1番美味しかったと思う。

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