第6話 情報の海の駆逐艦

画面から消えて1時間後、ちょうどプログラムが終わった頃にいのりも戻ってきた。

「京さん?前回の大会で顕著な成績を出した高校の情報網に侵入して現在の状況を確認してまいりました」ドヤ顔でハッキングを暴露するとファイルを送りつけてきた。

通知の音がして、「これは?」顧問に見つかった。

「これはライバル高校の機種別の成長率らしいです」

操縦者と補助者は喰い入るように見入っていた。

「まずまずか、もう少し早くできれば、、、」

すると1人の顧問が口を開いた。

「軽量化だな」

同タイムの場合はより軽量の方が勝ちとなる。

「やっぱりオムニホイールをメカナムホイールにかえてみるか、、、」

これで左右に動けるようになる。

30分で配線まで切り替わった。

「どう?」

左右には動けるが、今度は斜めが動けなくなった。

「えぇ、、」

答えに困っていた。

積み上げと移動の両方、最後にはボールを投げ合う、競技内容は障害物を避けて回収したアルミ缶を積み上げることでポイントが増えることになっている、積み上げたアルミ缶を互いに狙い、倒壊させる競技、自律機はそれを防ぐために用いられる。

最後に残ったアルミ缶がポイントとなる。

なかなか答えない操縦者に3人目の顧問は口を開いた。

「まぁ、どっちでもいいけど、競技中にぶっ壊れるようなものなら困るから」

顧問と操縦者たちが集まって話し合ってるのを他所に、一人で淡々とプログラムの確認を行った。

「京さん?私と2人で自律機を完璧にしましょう」

そして提案してきたのは複雑な案だった。

「シールド展開?」

5mのシールドを展開して完全に覆ってしまうものだった。

「圧縮空気で展開して?」

画面いっぱいに頷いていた。

「その案、、、すでに出てるけど、倒れるかもしれないと却下になった」

口をムッとしてすぐに悲しそうな顔に変わった。

「わかりました、では、レーダーで探知して、ボールを避けるようにいたしましょう」

製作費がいくらあっても足りない。

「駆逐艦のアクティブフェイスドアレイレーダーです、ボールなんて駆逐してあげましょう」

起動して数分も経たないうちにバッテリーが駆逐されてしまうが、、、

「メイン機と連携すれば良いでしょ」

いのりの論破を試みたが結果が出無かった。

「私が自律機に入ってカメラを元に操縦します」

どうやら自分の存在を公にしたいらしいが、受け入れてくれるにはロボット工学部でも時間がかかりそうだ。

それからしばらくして部活が終わった。

既に外は真っ暗になっていて、夜道を高出力のライトを付けたロードバイクでゆっくりと帰った。

「私が周りを警戒しています、ご安心ください」

画面には、いのりのキュッと引き締まった後ろ姿だけが映されいる。

「やっぱり、京さんでも、この姿を見せるのは恥ずかしいです」

突然、後を振り向いて話かけて来た。

「後ろです」

振り返ると自転車のヘッドライトがものすごい勢いで追いかけて来た。

「はぁ~はぁ~」

目の前を通り過ぎると、喘ぎ声のような声が聞こえて、洗い立ての石鹸のような匂いを感じた。

顔は見えなかったが、全力で自転車を走らせる女性だった、朝にも同じような匂いがした。

そして察した。

「またか」

独り言のように吐き捨てると、通り過ぎた自転車は5m先で止まった。

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