第8話

夜が明けて、素振りを始める前に声が聞こえて来た。


「どうも、こんにちは。こんな辺鄙へんぴな所に人がいるとは思いませんでした」


「お初にお目にかかります。私の名前は…」


私はこの世界でどういう名を名乗れば良いだろうか?

やはり名字があるのは貴族だけなのだろうか?


前世の名前を使うのが一番楽だが、せっかく新しい生を受けたのだ。

前世とは違う名前にした方が気分が切り替わり、ここで生きている実感に繋がる。


それにしても名か…名付けとはなかなか難しいな。

新しい生…切り替わる…時間…0時…


少し適当過ぎるかもしれないがこれからはレイジと名乗ろうか。

やや日本人っぽい名残が残ってしまったが、それもまた良いだろう。


「レイジと申します。お見知りおきください」


「これはご丁寧にどうも。


私はクリスです」


改めて目の前のクリスという人物を観察してみる。


髪は金髪だが下品な色ではなく、どこか気品を感じさせる様な色だ。

目は唐紅からくれない、何とも美しい色をしている。

かつて貴族達の憧れであったという逸話も、実際に目で見ると頷けるものだな。


声は中性的な感じで、声だけでは性別の判断は難しい。

身体の方を見れば女性的な部位の特徴が見受けられるので、女性に間違いないだろう。

詳しい年齢は解らないがまだ若く、20には届いてはいないとは思われる。


「あの…」


「ああ、これは失礼しました。


久しぶりに人を見たので、つい不躾な視線を向けてしまっていた様です。


申し訳ない」


私は観察していた視線を外し、謝罪を伝える為に頭を下げる。


「いえ、私の方こそ黒目黒髪の人なんて初めて見ましたから」


どうやらこちらの世界では私の髪色と目の色は珍しい様だ。

私からしてみれば君の様な唐紅色の目の方が珍しいが。


「こちらこそ何かお邪魔をしてしまったみたいで申し訳ありません。


どうぞ続きをなさってください」

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