第八話 火の家紋

「で、なんだってお前も一緒に飯食ってんだよ。」


 華が朝食の席に着くとそこには既に三杯程の飯を平らげた正一の姿があった。


「うんうん!食いっぷりの良い漢はおじさん嫌いじゃないよぉ!どんどん食べていきなさい!」


雅一が呑気そうに茶をすする。


「じゃなくてよぉ!なんでこいつがいるんだって!」


華が立ち上がって正一を指差す。


「まぁまぁ、食事は大人数の方が楽しいだろう。そういえば、鈴、翔君の姿が見えないけど。」


「翔君は昨日の夜から体調が優れないらしいわ。」


「そいつは大変だ。後でお粥かなにか作って持っていってあげよう。」


「そういえば、太郎のおじさまも見当たりませんわ。」


「あぁ、たろっちは今朝早く家の方に戻っていったよ。何だか重要な儀式があるとかなんとかで。」


「おかわり良いですか」


 正一が鋭い眼光と共に鈴に向って茶碗を差し出す。


「少しは…」


 スゥと息を大きく吸い込んだ華が正一の体をグッと掴み込む。


「人の話をきけぇぇええええ!」


 そのまま正一の体を縁側に向かって思い切り叩き付けた。


「正一君!こら!華!お客さんに向かってその態度は無いだろう!」


 雅一が華を咎める。


「うるせぇ!糞親父!」


「大丈夫です。」


 そう言いながら起き上がると正一は正座でその場に座り直し、華に向かって頭を下げた。


「急に押し付けておいて申し訳無かった。実は今日は貴殿等桜の家紋を持つ者達に頼みがあってきたのだ。」


「何だよ、急に改まって。」


「桜の家紋を持つ者達よ!火の家紋を打ち破る為、我らに力を貸してくれ!」


「いや、ワケわかんねぇ」


 華が即答する。


「実は、数日程前、我ら漢の家紋を持つ者が何者かに襲われたのだ。極度の火傷を負ってな。そして何とか一命を取り留めた漢達に話を伺ったところ、皆口を揃えて言っていたのだ。火の家紋を見たと」


「…それだけの理由で」


「そして、その漢達はこうも言っていた。斬られたと。そして切り傷から広がるように火が燃え出たと。」


「おいおい、まさか私達を疑ってんじゃねーだろうなぁ。」


 華が腰に手を当て呆れたような顔で、正一の方を向いた。


「更にだ。男達はあるものを見たと言っていた。もう一つ。そして、これがここに来た最大の理由でもある。」


「な、何を見たってんだよ…」


 華の顔が強張る。


「浴衣だ。紅色に染まった桜の描かれた真っ赤な浴衣を見たと。」


「べ、べに…ま、まさかそんな…」


 雅一の顔が青く染まってゆく。


「そうだ。いたのだろう。この姉妹以外に。この桜の家紋を継ぐ者が。次期九代目になる筈だったこの姉妹の兄が。」




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<祝!!やっと50pv!!!>抜刀!!!!華侍!!!!! 健全過ぎる紳士 @kenzen-ero-life

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