第8話

 僕は結婚をして子供を作って、その我が子を育てている間に「自分は父と母を過小評価していないか?」と感じるようになっていた。よくスポーツ選手や著名人がインタビューなんかで「一番、両親に感謝している」とか言っているのを見たり、自己紹介なんかで「尊敬している人は自分の両親です」と言う人とかもよくいたけれど、僕にはあんまりそれがピンとこないところがあって。やはり自分が人の親になって初めて分かることも多くあり。誰しもが必ず(その存在を、己が自我を持つ前に無くした人も含め)両親がいた訳であり。その誰かの親のほとんどが僕の父や母も含め、別に教科書に載るような偉人である訳でもなく。実際に親子の確執も世の中にはあることも僕は知っているし、お金が絡めば例え親子であっても裁判で争うことも普通にあることも僕は知っている。そんな今の僕が父や母に対して「なんとなくすごい」と思っても、具体的にどういうところがすごいとは人に説明することは出来ない。昔から「親ばか」という言葉があり、よく見てきた「我が子が、我が子が」の「親ばか」は覚悟のないものであまり好きではなかったけれど、テレビで見るものすごい凶悪な事件を起こした犯人の親が、世界中全ての人を敵に回してでも自分だけは我が子の味方でありたいと、覚悟を持った「親ばか」は無責任に非難することは出来ないし、むしろ僕はそっちの方が好感を持てた。


 式の最後に父が代表してこの結婚式に集まった人たちに挨拶をした。僕は大勢の人の前で父と母、そして兄の結婚相手の両親が並んでいるのを見ながら、「こんなに大勢の人の前でちゃんと喋れるのだろうか?」と心配したが父はあらかじめ用意しておいた紙を封筒から取り出してそれを読み始めた。マイクも父の声をしっかりと拾っていたし、ただ手に持った紙に書かれたことをその場で読むだけだからと安心した。


 そこでそれを見た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る