小説のかきあげ

デッドコピーたこはち

水素農場襲撃

「これで良し」

 安藤は。スイソウリ収穫器しゅうかくきの腹についている点検口の最後のねじを締め終えた。

「動くかねえ」

 高田夫人は心配そうに、収穫器と安藤を見つめた。

「そのはずです」

 安藤は収穫器にまたがり、その尻尾を引っ張った。収穫器はブルルンと鼻息を荒げ、四足で元気に歩き始めた。

「安藤さん、ありがとうなあ。器介きかい弄れる人がいて良かったわ」

 高田夫人は胸をなで下ろした。スイソウリの収穫時期だというのに、収穫器しゅうかくきが突然動かなくなくなってしまい、途方に暮れていたのだ。

 スイソウリは光合成の明反応でつくった水素ガスを葉に貯め込むように造られた植物だ。この高田水素農場は、その風船のように膨れ上がったスイソウリの葉を収穫、水素ガスを抽出し、液体水素のボンベを作るのが仕事である。つまり、スイソウリの収穫ができなければ、この高田水素農場は潰れてしまうということだ。

 新人の安藤が器介きかいを治すことができて、本当に幸運だったと高田夫人は思った。

重糖液じゅうとうえき給餌管きゅうじかんの詰まりでしたから。何とかなりました。流石に臓器がやられてたらどうにもならなりません」

 鉄の骨組みの中に入れられた器介の臓器は、他の部分と違って生きている。遺伝子操作と発生調整によって用途に合う様に造られた生体組織だ。安藤は軍にいた頃の経験で器介について多少の知識はあったが、本職の器介医師ではない。器介の臓器が病気になったり、怪我をしていたならお手上げだった。

「まあ、臓器の方もいつまで持つかわからんけどねえ。こいつも相当な年寄りだから」

 「いえいえ、こいつも手入れさえすれば、まだまだやれそうですよ。高田さん」

安藤は収穫器の頭を撫でながらいった。

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