「昨日はなかなか寝かせてくれなかったね!」と学校一の美少女が言ってきた。

鳴子

昨日はなかなか寝かせてくれなかった

 とある日の清々しい朝。今日の俺——水野青斗みずのあおとは気分が良い。

 何故なら昨日の夜遅くまで好きな人とメール出来てたからな。

 そんな気持ちで学校に着いた。


「なんだお前。顔がキモいぞ」


 学校に着いて早々俺は友人の真司しんじに話しかけられた。


「キモい言うな」

「事実だって」


 そう言ってスマホを取り出した真司は、俺にスマホを向けてきた。そしてそのすぐに、パシャと写真を撮った音が聞こえた。


「いきなり写真撮るなよ」

「ごめんごめん。それで見てみろよ。自分の顔を」


 真司は軽く謝るとすぐに俺の写真を見せてきた。


「……確かにキモい……」

「な! 言ったろ」


 真司に見せられた写真を見てみると、ニヤニヤとして、犯罪でも犯しそうなヤバい奴の顔だった。


「ちょっと顔洗ってシャキッとさせてくるよ」

「それが良い。行って来い」


 俺がそう言って教室から出ようとすると一人の女子の顔が見えた。

 俺の好きな人、桃山早苗ももやまさなえさんだ。ちょっと天然だが、優しい性格で容姿も整っている。

 少し見惚れていると早苗さんが話しかけてきた。


「おーい! どうかしたの?」


 その声にハッとした俺は自分の頬を叩いて無理矢理に顔をいつも通りに戻した。


「……いや。なんでもないよ」

「そう? さっき顔叩いてたけど……」


 キモい顔を直してたなんて言えるはずもなく


「ちょっと眠かったんだよね」


 俺はそう軽く返した。それがまさか盛大な地雷を踏むことになるなんて思わなかった。

 俺の返事に対して早苗さんは共感するように頷いて口を開いた。


「私もだよー。でも‼︎」


 その瞬間クラスの全員がこちらを凝視した。

 そして一人の女子が早苗さんに話しかけていた。


「寝かせてくれなかったってどう言う意味……」

「どう言うってそのままの意味だよ。明日学校だって分かってたけど盛り上がっちゃって」


 早苗さんのその言葉に元々厳しかった目線が余計厳しくなった気がする。

 前言撤回。ちょっとの天然ではない。超が付くほどのド天然だ。


 そう思っていると早苗さんの会話の矛先がこちらに向いた。


「あんたどう言う意味?」


 話を聞いていなかったためどの事を言っているのか分からなかった。


「な、何が……?」


 怖かったけど恐る恐る聞いてみた。


「この娘があんたに無理矢理やらされたって言ってるんだけど」


 そう言って早苗さんを指差していた。確かに話がしたくて無理矢理誘ったかもしれないけど絶対思ってることと違うでしょ! そう思った。


「全部ごか——」

 流石に止めないとヤバいと思い説明しようとした。すると横から早苗さんの声が聞こえてきた。


真央まおちゃん違うよ!」


 真央とは俺のことを問い詰めている女子の名前だ。それにしてもようやくこの状況を察してくれたかとホッとした。

 そんな異様な空気が漂っているの気づかない人は馬鹿だな。そう思いながら早苗さんの言葉を聞いた。


「確かに最初は無理矢理だったけど、最終的には楽しかったから、青斗くんとしたいと思うよ」


 馬鹿だった……。好きな人にこんな事は言いたくないけど。馬鹿だ。

 しかも話してたって言えば良いじゃん。なんでそこを端折るの……。俺はガクリと肩を落とした。

 当然この異様な空気が収まるどころか悪化してしまった。


「早苗ちゃんって青斗くんと付き合ってるのー?」


 この物凄い空気の中そんな声が飛んできた。


「ええ! なんでいきなりそんなこと聞くの! ……付き合って……ないけど」


 あからさまに動揺した様子でそう答えた。

 顔を赤くさせて体をモジモジさせている様子を見ていると、流石に勘違いが行き過ぎる前に教室を飛び出した。早苗さんを引っ張り


「皆んな勘違いするなよ!」


 と、言い残して。


***


「どうしたの。そんなに焦って」


 いきなりここまで引っ張って来たのだ。びっくりしているのは当然だろう。

 でも頭も働かなくなって来たし、こうするしかなかった。


「いきなりこんなことしてごめん。でも早苗さん。さっきの言い方は皆んなに誤解されるって」

「何を誤解するの? 普通にメールで話してただけだよ」


 俺の言葉に対して首を傾げてそう言う早苗さん。

 ここまで言って分からないのか……。逆に尊敬するよ。

 俺はそう思った後、覚悟を決めて早苗さんに全て言うことにした。


「あのね。早苗さん。「昨日寝かせてくれなかった」って言葉はで勘違いすることってない?」

「昨日寝かせてくれなかった……。……あっ……」


 最初は何ともなかった早苗さんだがその言葉の意味に気づくと顔を赤面させて座り込んだ。


「だ、大丈夫?」

「…………」


 俺はそう聞いたけど返事はなかった。

 早苗さんは体操座りをして顔を見られたくないかのように太もも近くまで落としていた。


(白だ……)


 スカートの奥にその色が見えた為そんなことを思ったが、同時に罪悪感も襲って来た為直ぐに目を逸らした。

 

 そして少し経って


「青斗くんは嫌だった?」


 顔は上げてくれなかったけど、そうやって口を聞いてくれた。


「別に嫌じゃ無いけど。……早苗さん可愛いし……」

「えっ!」


 俺が勇気を出して言った言葉に反応して顔を上げてくれた。

 その顔は真っ赤に染まっていたけど。


「本当に嫌じゃ……」

「大丈夫だって嫌じゃないから」

「それなら良かったよ……」


 今、めちゃくちゃ良い雰囲気じゃないか……。そんなことを思ったがこう言う時に限って声が出ない。


「それじゃあそろそろ行こっか。みんなの誤解を解かないと」


 そう言って早苗さんは立ち上がった。

 ヤバい。二人っきりの時間が終わってしまう。どうすれば……。

 そんな時だった。早苗さんはこちらを振り向いてきた。


「もしね。あの教室の出来事がわざとだって言ったらどうする?」

「えっ……」


 あの何かを含んだような言葉が全部わざとだったら……。

 その言葉を聞いた後俺は急に体が軽くなった気がした。


「好きだ! 付き合ってくれ」


 思わず勢いで告白してしまった。

 絶対に無理だろう。そう思っていると


「……はい」


 いつもより一段と小さな声だったがはっきりとそう聞こえた。


「え……!」


 思わずの出来事で硬直してしまった。


「もう! 恥ずかしいから沈黙しないで!」


 そう言って早苗さんは俺のことを軽くつねってきた。


「ごめんごめん。本当にびっくりしちゃって」

「じゃあそろそろ戻ろ!」

「ああ」


 俺たちはそんなやり取りをして教室に戻りはじめた。

 途中の廊下で俺は気になることがあったので訊いてみた。


「本当に教室の出来事ってわざとなの?」

「私がそんな器用なことできると思う?」


 逆に聞き返された為考えてみたが、どこかで変なミスをして終わりそう。そう思った。


「いいや。出来そうにない」

「でしょ」


 そう会話した後教室に着いた。


「勘違いされたままかな」

「多分そうだろうな」

「まあ頑張ろ」

「そうだな」


 誤解を解く覚悟は決まり教室に入った。すると

 教室にいる全員が息を切らしながら、席に座っていた。さっきまで全速力で走っていたかのような疲れぶりだ。


「皆んなどうかした?」

「ふぅー。……いや。何でもねえよ」


 俺の問いに真司が答えた。


「後、もう誤解してねえからおめでとさん」


 そう言って真司が拍手すると皆んなも続いて拍手し出した。まるで何かを祝福するかのように。


 祝福……? それで息を切らしてて。

 全部わかったような気がする。


「お前らまさか全部見てたのかー!」

「そんな訳ねえよな。皆んな!」

「「「うん」」」


 そんな声が教室に響いた。教室にいる皆んなは朝の俺みたいな顔になっていた。


「お、ま、え、らー!」


 今回の出来事が起きて、なんだかんだで楽しいクラスだなそう思った。


「ねえねえ。青斗くん」

「何だ?」

「今ってどういう状況?」

「……はぁ」

「えっ!」


 早苗さん——いや早苗も何も変わらないなとも思った。




 

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「昨日はなかなか寝かせてくれなかったね!」と学校一の美少女が言ってきた。 鳴子 @byMOZUKU

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