閉じていく世界の底にかろうじて差した一筋の何か

 深夜(二十時だけど事実上の深夜)の田舎町、強い虚無を片手にあてどなく散歩する女性のとりとめもない夢想、あるいは独白と、その先の小さな再会のお話。
 いや言うほど小さくもないんですが、でも大きな出来事と呼んでやるには少し悔しいような、そんな再会の物語でした。いや再会というより拾い物かもしれない。
 序盤の雰囲気、なんだか『日本の原風景・令和版』みたいな光景の続く、田舎の書き表し方がとても好きです。一昔前のフィクションなら白いワンピースに麦わら帽子の少女とかが自生しそうな田舎の、でも「まあ運用レベルだと絶対こうですよね実際」的な部分。要は滅び廃れゆく狭い社会の愚痴なんですけど、でも描写の柔らかさと主人公の感覚のおかげか、あまり苦味やえぐみを感じずにするするいけちゃうのが逆に凶悪でした。いや本当に危ないです。口当たりがいいくせに中身はちゃんと限界してるぶん、後からどんどん効いてくるので。
 なんだか水底に沈んでいるかのような重苦しさの中、ようやく差した一筋の光明。それが言うほど光明してないっていうか、ある意味その重苦しさの代表みたいな存在というのが面白いところ。村一番の美少女田中さん。特に憧れでもなければむしろ本当に親しかったかどうかも怪しい、なんだか面倒でわがままな感じの旧友。面白いのはそれがすべて主人公の主観を通してのみ書かれているところで、そしてこの主人公が客観的にどういう人間であるかは、少なくともはっきり確定できるほどの情報がありません。
 例えば普通に読んでいくとこれ、ちょっと変わった性格の彼女に対し、比較的真っ当な主人公が仕方なく付き合ってあげている、という風に見えるのですけれど。でも実際のところだいぶ怪しいというか、この主人公もどこまで真っ当だったかわかったもんじゃないところがあって、でもその辺は結局はっきり断定できるだけの材料がありません。そうかもしれないしそうでないかもしれない。なんかアレなとこあるけどさすがに他に友達いないってほどじゃないかな、いやどうだろう怪しいな、みたいな感覚。
 ただそれでもとりあえず言えるのは、どうも両者ともそれなりに大変っぽいこと。たぶんふたりとも白ワンピと麦わらは似合わなそうで、チューハイの缶を片手に連れ立って歩く夜道の先、辿り着いた結末の不思議な晴れやかさ。いやいまいち晴れきってないけどでも息継ぎはくらいはできて、それが存外にホッと心安らぐといった程度の、「解決」や「救済」と呼ぶには遠い「一息ついた」くらいの世界の拓け方。思春期の頃の夢みたいに強くも大くもないけど、でも確かなハッピーエンド。
 その自然な手触りが抜群に気持ちいい、優しくて柔らかい物語でした。面白かったです。