第48話 没頭していたからでしょうか?

 没頭していたからでしょうか? アッとゆう間にテスト週間は終わり、後はテストが戻ってくるのを待つだけです。今回は校長先生からの無理難題も無いし。よっぽど藁人形に髪の毛をむしられる夢が怖かったのでしょう。ただし、40点以下の場合は補習があって実質部活動が出来なくなります。

「ああっ、終わった終わった。今日から部活ですね」

 プレシャーから解放されてすがすがしく終了宣言をしてるけど……。私はジト目で隣にすわる長田君を見ました。

「長田君、テストはできたんですか?」

「まあまあだったよ。50点はいったと思う」

「それは自己採点ですよね。できない人の自己採点ほどあてにならないものはないんだけど……。ほら、分からないところが分からないって云うのが最悪なのよ」

「大丈夫。三好君と一緒に勉強してたから。やったところが半分以上でたんだよ」

「フーン。半分以上ね……」

 あえて、出たところが出来たかどうかは追及しない。努力していたことは私だって認めている。今回は、前回のような意地悪な問題も無かった。私にとっては、勉強したことの10%も出ていなかった。それこそ重箱の隅を突っつく様な勉強をしたのに、本気になれずに消化試合みたいな感じです。

 そこで、私は自分ほほを気合を入れて張った。周りのみんなは驚いたようだけど……、しかも長田君なんか自分が叩かれたような痛そうな顔をしているけど……。

「長田君、これからが本番だよ」

 そう云うと、自分のカバンをひっつかみ校門へと急ぐのだった。

 その行動に一瞬驚いた長田君も、慌てて私の後を追いかけてくる。少し遅れて高橋さんと田中くんも。


  校門のところでは、すでに三好兄弟妹と薊会長が待っていた。

「遅くなってごめん」

「いや、僕たちも今来たところ」

 まるで、デートで待ち合わせていたような会話をしたけど、もちろんこれからデートをするわけじゃない。

 私の家に寄って、ダンスの衣装を取って来て、それから越山町文化ホールに行くのだ。

 私の家までは歩いて5分、そこから文化ホールまでは5分位。せっかく鏡張りのレッスンルームが使えるから、ロシアから届いたドレスを着て衣装チャックもするつもりなんです。


 越山町文化ホール。外観は白い壁に瓦葺の大きな建物です。正面玄関の庇は丸く半ドーム状になっていて、そこに三日月型の板が張り付けられています。これは兜をイメージしているそうです。

私たちは裏に回って関係者入り口からホールの中に入りました。楽屋裏のような通路にわくわくします。男子を先にレッスンルームにやって、私たち女子は控室でドレスに着替えました。カクテルドレスをミニスカート風にした大胆なドレスです。薊会長はセクシーイエローの黄色、真理は情熱のワインレッドの赤、高橋さんは可愛らしくピンク。私はガルシア候時代に好んできていた品格があり神秘の色、紫。みんな自分のカラーに合わせたおしゃれなハイヒールを履いています。

そう、このハイヒールでクイックステップを踏むところが、社交ダンスはかっこいいわけです。見ている人も「おおっ」ってなるし。


準備が整って、いざ、レッスンルームに出陣です。男子たちはどんな顔をするのでしょう。

私を先頭にドアを開ければ、正面はガラス張り。

うん。とても似合っている。って云うか私ってやっぱり貴族のお嬢様です。

男子は「おおっ」と声が上がりましたが……。そうでした、私は人の表情が分からないのでした。

「選択肢1、きりきり舞いで、どうにもとまらない 選択肢2、……出てこない。これはイベントじゃない!のか? その衣装に比べてそもそも俺たちは制服って!」

(やった! ついに言わせた!!)

 はて? 私が前世を思い出した時に良く聞こえていた声が聞こえたようだけど……。きっと空耳よね。大体、その歌詞、別の歌だし

 それより、田中君、いつもの選択肢はどうしたのよ。そこでテンパらないで。でも、そのリアクションで大体どんな反応をしたのか私にはわかった。男子の服装ももちろん考えているわよ。白いターバンにサングラス。グレートサイヤマンじゃないわよ。マレーの虎、ハリマオのイメージだから……。

「はいはい、それじゃー、始めるわよ。みんな一について!」


「どうにも〇まらない」がヘビーローテする。まあ、1個間耐久再生です。

「長田、遅れてる!!」「長田、手が伸びてない!」「長田、そこ足が逆!」

 散々罵声を浴びた長田君だけど、みんなが休憩している間もしっかり鏡を見ながら練習していた。この自分の姿を鏡に映しながら練習するのは思いのほか刺激になるらしい。

 そりゃあ、自分の動きを同時に客観的に観ることなんてないでしょうから……、

 長田君がその気になっただけでも、ここに来たかいがあった。それにみんなもメリハリをつけて格好良くなっている。


 そんなふうに5時まで有意義な時間を過ごした。さすがに半日動き回って、みんな息が上がっていた。

「そろそろ5時だから片付けないと。次の予約も入っているらしいから」

「そうだね。じゃあ長田君、ここの片づけは任せて。部活の時間でここ空いてる時間があったら取って来て。もう、地区予選まで2週間もないから」

「うん。わかったよ。ここだとダンスが上手くなるのが早くなるみたいだ」

 そういって、窓口の方に行った長田くんだけど……。それ、気のせいだからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る