第47話 「どうにもとまらない」

「「どうにもとまらない」なんかいいと思う?」


 私の提案に暫し沈黙、まあ、ほとんどの人が知らないか?

「いや、いいんじゃないか! 高校野球じゃブラバンでよく応援歌に使われているし」

「イントロの太鼓のリズムがまさにラテンのリズムでカッコいい。他の選択肢が思い浮かばないよ」

「私の生き方にぴったりよ!」

 どうやら、みんな頭の中でリズムと歌詞がリフレインしていたみたいだ。

 アザミ会長、もちろんあなたのために考えました。


 すでに頭の中で音楽が流れているのだろう。真理はクイックステップを踏んで踊っている。体を入れ替えるキレ。神ダンスだわ!

 ごまかしがきかない前髪ぱっつんのおかっぱ頭、よほどのレベルに達していないと様(さま)にならないはずなのに……。絵になっている。

「決まりだね」

 長田君が私の肩を叩いた。一瞬いい雰囲気になったけど、私は一つ大事なことに気が付いた。

「長田! お前は早くダンスのステップを覚えろ!」



 翌日、スマホからダウンロードした曲を持って、長田君とダンス部の部室にいく。

 すでに、教室の方からは音楽が流れているのだ。同じことをみんな考えていたんだ。

 結局、かっこいいということで英語バージョンを採用、田中が言うことには、何かアニメのエンディングに使われていたらしいけど、最高にクールで、龍王伝説(レジェンズ)というなら私たちにぴったりだ。


 それから、みんなはフォーメーションについて考えていた。

 黒板に7つの丸が書かれていて、矢印が書かれて、パートナーチェンジやポジションチェンジについて議論が伯仲している。

 いい感じじゃない? ただし、長田君の方ではそうではなかったらしい。


「怖い。それに何あの動き……、覚えられないよ」

「はーあっ、高々2分半の動きよ。もともとラテン系は動きが激しいんだからあのくらい普通だよ」

 結局、パートナーは三好君と薊会長、田中君と真理、高橋さんと長田君、この三組が、私を中心にトライアングルを作って踊る。パートナーチェンジが1度、私に手を差し伸べる3人を振り、3人は別の人とパートナーになるという構成だ。

 そして、最大の見せ場、全員が同じダンスを踊るユニゾンでは、間奏部分で、小刻みなステップで縦に一列に並び、千手観音になった後、交差サイドステップで三好君をセンターに女子の間に男子が入りV字型に並びが変わり、ターンを繰り返しながら、舞台を縦横無尽に動き回る。もちろん、指先の動きまで同じポーズングだ。


 この日はダンスの構成を考えただけで、一日が終わってしまった。細かいダンスはパートナーで踊る時は、ひと悶着あったが三好君と薊会長はサンバを基本に、田中君と真理はルンバを基本、長田君と高橋さんはチャチャチャを基本にダンスをするという。この三つダンスを、私のソロを中心に見られるなんて観客はなんて贅沢なんでしょう。

 そうですね。私はカルメンでも踊っていましょうか?

 冗談はさておき、全員が揃えて踊るユニゾンは私がフリを考えてくると言うことで決まった。これは結構辛い。社交ダンスは基本二人の男女が抱き合って踊るから手のフリなんてない。ポージングで使うニューヨークぐらいかしら……。集団で踊るアイドルの動きを参考にしようかしら?


 そんなわけで、ダンス同好会のコンクールのダンスのふりを修正していくうちに月日は流れる。

 明日から期末試験が始まるということで、今日から試験勉強で最後の練習日だ。

ダンスの完成度はかなり上がって来ている。三好、薊ペアーのサンバはかなり扇情的だ。腰をこすり合わせるようなダンスでかなり卑猥。薊会長が上手くリードして色気充填120%です。

「もう、どうにも堪らない!!」

この二人、間違いなくセクシービームが撃てるに違いない。

田中、真理ペアーのルンバは何と云うか情熱的だ。感情をぶつけ合う様に踊るさまは格闘技を見ているようです。

実は、仲が悪かったりして?

長田、高橋ペアーのチャチャチャは、何と云うか長田を上手く高橋さんがカバーする踊りだ。単調なステップを踏む長田を中心に、高橋さんがチャチャチャのステップで周りをまわりながら踊る。鈍感な男を積極的に誘惑する女の子をコミカルに表現している。

それぞれ、薊会長は色気、真理は格闘、高橋はコミカルと上手くそれぞれの特徴がはっきり出た踊りです。

ついでに私の方は、ソロなんで基本、男の間を渡り歩く蝶をイメージして踊っている。


そして間奏で、ショートステップを踏みながら縦に整列して千手観音。

 問題はこの千手観音が上手くできているかどうかが私たちには分からないということだ。

 それにユニゾンがちゃんとそれっているかも全体を見ることが出来ない。

 それについて山本先生に聞いたら「まあまあなんじゃないの?」って返ってきた。

 まあまあって、日本語では評価低いけど言いにくい時に使うんでしょ。語尾は疑問形だし。

 

 そんなことで困っていると、長田君が素晴らしい情報をもたらしてくれた。

 なんと、この越山町の文化ホールにはレッスンルームなるものがあり、前面鏡ばりだと云うのです。

「長田、でかした!」

 でも、明日から期末試験の一週間前で部活が休みになります。タイミングがどこかズレている長田君。ダンスもズレているんじゃないのか?

 しかし、長田君の次の言葉で私の機嫌が直ったのです。

「試験明けの金曜日の昼から借りて来た」

「まじで?」「長田君。気が利くー」

 金曜日はテスト最終日で、3時間で授業は終わりです。昼から丸々ダンスの練習ができます。期末試験でできた後れを取り物さなければ。そんな時に客観的に観れる前面鏡張りのレッスンルームが借りられるなんて。

「ところで、利用料金はいくらなの? ダンス同好会は部費が無いわよ」

 山本先生の言葉に現実に引き戻されましたが、長田君の「無料です」の言葉に私は再び元気づけられたのです。

「学校の部活での使用は料金が発生しないんです」

 越山町、なんて生徒思いのいい町なんでしょう。今までド田舎とか言ってごめんなさい。そう言えば引っ越してきた時、役所に行ったら子育てしやすい町の垂れ幕が掛かっていたような……。

 そういう訳で、テスト明けの楽しみも出来たので、一気にテストに没頭しようと思います。


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