バッカじゃないの

またたび

バッカじゃないの

 今日も頭の中で恋の歌が巡る。


「バッカじゃないの」


 自転車に乗りながら僕を小馬鹿にする彼女は、幼馴染なのだが。別に恋なんてもんはなく、ただただ、僕を小馬鹿にしてくるばかりで。


「バッカじゃないの」

「なにがさ」

「なんであんなこと言われても言い返さないのよ。かっこ悪い」

「別にいいよ。相手を逆撫して殴り合いに発展するのも嫌だし」

「情けないなぁ」


 その翌日、彼女が誰かと口喧嘩をしていたとかそうじゃないとかなんとか。

 とりあえず今度何か奢ろうと思った。


 …


 …


 そして一ヶ月くらい経ったある頃。


 …


 …


 今日も頭の中で恋の歌が巡る。


「バッカじゃないの」


 自転車に乗りながら僕を小馬鹿にする彼女は、少し不機嫌そうだが。別に彼女を傷つけるようなことを言った記憶もなく、ただただ、理由を探してる僕だった。


「バッカじゃないの」

「なにがさ」

「なんであんな無謀な相手に喧嘩なんて挑むのよ。こんな怪我しちゃって。前なんか勝てそうな相手にも言い返さなかったくせに」

「別に理由なんてないよ。気まぐれ」

「嘘だ」

「嘘じゃない」

「嘘だ!」

「違うって!」

「嘘でしょ!! だって……私知ってるよ、あいつが言ってた悪口って、私のことなんでしょ?」


 思わず黙ってしまった僕に彼女は一言。


「ありがとう」


 僕も反射的に言葉を紡いだ。


「バカだなぁ」

「はあっ!?」


 睨みつけてくる彼女に僕は照れながら一言。


「お礼を言いたいのはむしろこっち。いつもありがとう」

「ふん。どういたしまして!」


 今日も頭の中で秘密の恋の歌が巡る。

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バッカじゃないの またたび @Ryuto52

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