第12話終わりの始まり
明くる日の朝。今日は寝坊せずにしっかりと目を覚ますことができた。でも今日に限っては寝坊して欲しかった。なんならそのまま眠り続けたかった……。昨日の俺の言動は本当にバカだった。
この二年間必死に隠し通していた秘密を、あんなにもあっさりと、しかも
いくら考えたところで始まらない。俺は覚悟を決めて登校する準備に移った。いつも通り冷凍食品を腹に流し込み、洗面所で顔を洗い髭を剃りそして……。俺は手に持ったカツラと眼鏡をじっと見る。もしかしたらもうコイツをつけるのは最後かもしれない。ドンキで買った安物の小道具だったけど、今までよくやってくれたよ。
もうコイツともお別れかと思うと少し寂しくなる。二年もの間ずっとお世話になってきたんだ。愛着も湧く。俺はいつもより丁重に、そっとカツラと眼鏡を装着する。
準備を終えるとドアノブをひねり、いつもより重いドアを開ける。行ってきます。
心の中でそう告げると、俺は学校に向かう。今日は特にこれといったこともなく、順調に学校へ着くことができた。そう、ここまでは。この後のことは俺にもどうなるかわからない。小高がクラスメイトにバラしてないと言う可能性もあるが、その望みは薄いだろう。
なんたってあの小高だ。人の嫌がることをやらせたら右に出るものはいないと言われる、あの性格最悪のゴミクズ女だ。きっとクラスに入ったら出会い頭に俺のカツラと眼鏡を
「秘密をバラされたくなければ、毎月10万うちに献上しな」なんてことを言われるのが容易に想像できる……。どっちみち最悪だ……。それでももう逃げることはできないのだから、覚悟を決めるしかない。俺は教室のドアの前に立つと、スゥーと息を吸い込みガラッとドアを開ける。
開けた先に待っていたのは、いつも通りの学校風景だった。俺が教室に入ったことで、別段変化があるわけでもない。つまり小高はクラスメイトには俺の秘密をバラしてないと言うことだ。ひとまず安心だ。
気持ちが少し楽になり、俺はフゥッと安堵の声を漏らしながら自分の椅子に座ると……。
「動くな」
ガシッと何者かに頭を掴まれる。誰だ……? いや、考えるまでもない。昨日の今日でこんなことしてくるやつは一人しかいない。それにまず声でわかる。この腹立たしく人を不快にさせる声は一人しかいない。俺はじっと顔の位置を固定すると。
「な、何かな小高さん。僕は忙しいから今はそっとしておいて欲しいんだけど……」
若干声をうわずらせながらそんなことを言うが。
「うるさい。次無駄口叩いたらこのカツラとるから」
「は……はい」
完全に脅されている。だ……ダレカタスケテー。そんなことを
「ねぇ、これあんたでしょ? この三年前にテレビから消えた人気子役の子」
「そ……それは」
小高の携帯の画面に映し出されていたのは昔の俺だ。もう三年前に芸能界からは綺麗さっぱり足を洗ったから、知っている人間なんていないと思っていたのに……。これは俺が想定していた以上に最悪な事態になったかもしれない。
ここはなんとしてでも誤魔化さなくてはいけない。
「い、いや……なんのことかな……? 僕は芸能人なんかじゃなくて、ただの一般人だよ」
苦し紛れでそう言うが、そんなので小高を誤魔化せるはずもなく。
「へーじゃあなんで素顔隠してんの? あんたが元子役で、それを周りにバレないようにするためっていうなら
こ……この女! バカなくせになんて鋭いんだ。もう……どうすれば……。
「ほらほら……。早く白状しないと、このキラキラな髪がみんなにバレちゃうよ〜」
まずい……。このまま黙り続けたら、コイツはクラスメイトの前で俺のカツラをとる。コイツはそういう人間だ。こうなったら素直に言うか。
別に俺が元子役だとバレたところで、特に困ることもないしな。いやでも……。
そんな葛藤を続けていた時だった。
「あの
突然そう声をかけてきたのは、あの花道鏡花だった。このタイミングでまさかの人から助け船が出された。これは乗るしかない。
「あ、そうなの? じゃあちょっと場所移動しようか。それじゃあ小高さん、また」
なんて事を言い残し、俺は花道をついて行った。
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