第2話 何かしてやらねば

俺は不思議な体質を持っている。

周期的に幸運が続く日と不運が続く日が来るのだ。

お互いの間隔も数日ってだけで、一定ではないし、別に科学的な証明もない。

でも、本当にそうなのだから、ケチをつけても仕方ない話だ。

昨日、一昨日辺りから幸運が続いているが、充電ケーブルが欲しくて自転車で買いに出掛けた、3日前の日曜日なんて笑ってしまう程酷かった。

充電ケーブルを買ってきたのに買い間違えたせいで対応してないから使えなくて、もう一度買う為に自転車で10ヶ所程の店を回ったのにどこも売ってなくて、諦めて家に戻ろうと店を出たら雨に降られ、濡れながら家に着いた瞬間雨が止み、しまいには一連のゴタゴタのせいで馬券を買い忘れたまま競馬のレースが終わっていた上に、予想の通り買っていれば万馬券だった、というスーパーコンボをかましていた。

対して、今日なんてそれを全てカバーするような大儲け。不運の期間は終わり、幸運な期間へと突入した。


勝幸(さて、これは幸運か不運か…………⁉︎)


そんな中で、俺は今、真夜中のベンチにいる女の子と対面している。



≪≫


「えっと……」


しばらく俺の方を見て固まっていたその少女が、やっと口を開いた。


少女「危ない人じゃ、ない……ですか………………?」


は?どういう事だ?

俺は刃物を持ってもいないし、誘拐しようとしてる訳でもない。

取り敢えず、首を横に振った。


少女「お兄さん、信用していいですか……?ウチ…………昨日は変な男の人に絡まれたから…………」


おいおい、危ないじゃん。

不審者に絡まれるような環境で、この少女は今まで生きて来たというのか……

驚きというより、やばさにヒきかけていたら、少女はおもむろに立ち上がった。

俺は少し慌てて答える。


勝幸「勿論不審者じゃないよ。帰宅途中のしがない大学生だ」

少女「じゃあ、助けてくれる?」

勝幸「え、あ…………まぁ、金なら出してあげても……」

少女「………………」


黙り始めた。反応に困る。

金じゃダメなのか?漫画とかで見る、『恵んで下さい』的なやつじゃないのか?


少女「…………て」


困惑しながらも言葉を探していると、相手の口からボソっとかすれた声が漏れた。

殆ど聞こえなかったから、聞き返したら、また黙ってしまった。

何か言いたそうな顔をしている。


勝幸「どうした?何か必要なら…………」

少女「家に連れてって」


は?

今度は無意識に声に出してしまった。

この女の子は一体何を言ってるんだろうか?

自分の言葉を遮ってクワッと出た言葉に、疑問符を浮かべる。

俺の家に?こんな、見ず知らずの人間の?

もう訳が分からない。でも取り敢えず、何か反応しなくては。


勝幸「俺の家にって……何を考えて……」


まんま思ってた事を口に出しておいた。


少女「お願い……助けてくれるならお願い…………ウチ、もう………………」


上着の袖の端を掴んで懇願してきた。

突然どうしたのだろうか…………しかし、苦しそうな様子だ。

表情はよく見えないが、声だけで分かる。

掠れた声が、何かへの救いを求めている。


ふと、袖を掴む力が抜けたと思ったら、少女はふらっと崩れ落ちた。

咄嗟とっさに腕を伸ばす。

何とか体を抱えられた。

ぐったりと自分の腕の中に入ったこの女の子を、しっかりと支え直す。そして、取り敢えずベンチに座らせようとしたその時、異変にふと気付いた。


勝幸(熱い……⁉︎まさか…………‼︎)


前髪を掻き分け、額に手を当てる。

やはりそうだ。

間違いなく、体調を崩している。こんな所にいるから、風邪でも引いたのかもしれない。


勝幸「おい‼︎大丈夫か‼︎」


俺は驚きながら声をかける。大丈夫じゃないのは様子を見たら分かるのに。


勝幸「畜生ッ‼︎取り敢えず救急車呼ぶぞ‼︎」

少女「………………や、めて……」


バッグから携帯を取り出そうとすると、腕に掴まれた。やろうと思えばすぐ振りほどけるような、か弱い力で。


少女「…………い…………おね……がい……」


何故、制止するんだ。

救急車を呼ぶのがまずいのかもしれない。こんな所にいるって事は訳アリなんだろう。

ならば、どうするべきか……‼︎

無駄な思考をしているより、行動が最優先だ。

早く休ませてやらなければ、そうは思っても何をしたら良いのかが思い浮かばない。

目の前の少女に視線を移す。苦しそうな、小さな唸り声が漏れている。


ふと、先程の言葉が頭の中を占めてきた。

苦しそうな声が、俺を駆り立てようとする。

優しさと理性とのコンフリクトが、俺を苦しめる。

やりたくはない、やりたくはないけど…………


舌打ちが、出た。


勝幸「クソッ、仕方ねぇ‼︎俺の家は徒歩数分だ‼︎肩貸してやるから歩くんだ‼︎」


覚悟を決めた。

心の中で、優しさが生き残った。

手を差し出す。

早く何とかしてやりたいけど、流石にバッグを背負っていたのに、女の子1人おぶるのは不可能だ。

それでも、肩を預ける少女の顔が、気持ち安堵を浮かべているように見えた。


勝幸(しゃーねぇだろ、法律サンよぉ……‼︎)


俺は優し過ぎる。

今回は、今までに類を見ない面倒事かもしれない。

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