第二十七話 動きはじめた物語

 寒空の下、マフラーとコートを羽織り家を出る。

同じ家に住んでるのに待ち合わせがしたいだなんて…かすの言うことはイマイチ分からないな。


待ち合わせは午後2時…大きな柊の木の下で落ち合うことになっている。

空気が余計に寒く感じるのは浮き足立っているせいも少なからずあるだろう…。


待ち合わせ場所に行くと何度も髪をクシクシと治しながらソワソワした様子のかすが立っていた。

時折回りをキョロキョロしてみたりスマホを見たりしてやっぱり忙しないな…。


「かす、待ったか…?」

「あ!はーくん。私も今来た所だよ」

「本当は…?」

「30分前からいました…もう!テンプレでしょこのセリフは!」

「そんな手を真っ赤にされても…」


かすの手は霜焼けで真っ赤になり、今も手を息でハァ〜っと温めている。


「ったく…見てられないな」

「えっ…はーくん!?何して…」

「手を握れば少しは暖かくなるだろ…幸い僕はずっとコートに手を入れたままだ」

「あ…ありがと…」


かすの手を取ってみると僕の手の寒暖差でより一層冷たさを際立たせる。

かす…30分前以上からいるな…。


「ほら、これ…」

「はーくんの手袋でしょ?はーくんの手が冷たくなっちゃうよ」

「気にするな…僕は頭が冷めてる分身体は暖かいんだ」

「えぇ…その台詞が無かったらカッコ良かったのに…」

「はーくんだし、仕方ないけどね!ほら、行こ!」


 僕達は少し離れた所にあるラウワンへ向かった。

ここなら思い切り身体を動かせるし、何より寒さに凍える心配もないし…我ながら完璧って言いたい。


「私、ここ初めてだよ…」

「馬鹿言うな…僕が来たことあるように見えるか?」

「絶対ない」


ブンブンと手を振り全面拒否をしてくる…たしかに休日は家から出ないけど…そこまで否定します?

はーくん心折れちゃう!


「ご名答だな」

「まぁーはーくんだし」


絶対それ悪口だよね──僕ってそんなにインドアに見える…人間に必要なビタミン作られるくらいは日光浴びてると思うんだけど…


 そして僕達は体育でしか動かさない身体を使い…ボウリングやインラインスケート、ロデオやゴルフなどの定番的な物で遊んだのだった。


「あ…か……身体が…死ぬ…」

「情けないねはーくんは!」

「何でそんなにピンピンしてるんだよ…」

「女の子はキレイになる為にいつだってダイエットする生き物なんだよ」

「は…?そのままでも充分可愛いだろ」

「ふぇっ…!?あ……ありがとう…」


「かすってチョロインだったり…?」

「今のは不意打ちじゃん!バカ!!」

「痛い…叩くな……筋肉痛なんだって!」

「ほれほれ、ここがいいの?」

「ちょ…かすみさん?やめて…!目覚めないで」

「お客様?そういったプレイは野外でお願いします」


『プレイじゃないです』


「全く…酷い目にあった…」

「あはは…ごめんってば」

「今度かすのシャーペンの芯全部抜いといてやるからな」

「嫌がらせが地味に嫌なやつだ!!」


「僕はSっ気のあるロリに踏まれるのは歓迎、もしくは純真無垢なロリ─例えばりゅうおうのおしごと!のシャルちゃんとかな!」

「ここまで来て暴走しないでよ……」


 ラウワンを出るとすっかり外は暗くなっていた。

時刻は17時を回った辺りだが冬にもなると陽が落ちるのも早くなる。


「うわぁ…すごい綺麗」


 来た時は明るくて気づかなかったが沢山の扉のオブジェが装飾で青く光っていた。

カップル達が扉を開けて──まるで運命の出会いを偶然してしまった様な演出をして楽しんでいる。


「…やってみるか?」

「えっ…!いいの?」

「そんなに眼をキラキラさせてるんだ…気付かない方がおかしいだろ」

「じゃあ私待ってるから!はーくん開けてね!」


 運命…か…僕とかすがこうしてまた出会えたのも、1つの運命なのかもな。

始まりがあるから終わりがあるとは言うが…終わりの辛さを知っているから人は成長できるのだと思う。


1年前の今日…僕らは別れたのに、今はこうして一緒にいる…奇跡なんだよな。



「はーくん早く早く!」

「あぁ、今行くよ」


 無邪気に手を振るかすみの待つ扉へと葉月は歩を進めるのだった。


 ヤバい…設定って分かってても緊張する…この扉の向こうにかすがいるんだよな。

覚悟決めるしかないな。


コンコン

 扉をノックする音と共に葉月は扉を開ける。

扉の先には扉に背を向けたかすみが立っていた。

背景にはイルミネーションが並び、かすみの白い雪のような肌と相まって神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「かす…」

「えへへ…何だか王子様みたいだよ?」

「恥ずかしいから……早くいくぞ」

「あ、待って!写真…だめかな?」

「表情があざとい。いいけれども!」


「もっとこっち来て、私より後ろ下がらないで」

「注文が多すぎる…」

「私が顔大きく見えちゃうでしょ?」

「なら…隣なら文句ないよな」


 葉月は悪戯にかすみに身体をくっつける。ひんやりと冷たくなっていたかすみの顔が熱くなっていくのが直で感じられる。


「ばーか…ずるいよ…」

「何か言ったか?」

「別にっ!ほら、笑って」


パシャ

「はーくんの笑顔引きつりすぎだって!」

「う…うるさい笑うな!僕は写真がにがてなんだよ」

「断っても良かったのにー」

「かすのためだからな…」

「ふえっ…あ…ありがとう…」


「少し寄りたいところがあるんだ」

「珍しいね〜いいよ」


────────────


「ここって……」

「あぁ…」

 無理もないか…僕がここを選んだとしてもかすにとってはトラウマになっているかもしれない場所なんだ。


「悪い…配慮が足りなかった…」

「そんなことないよ?1人だったらトラウマになってたかもね」

「でも…今ははーくんがいる」


 そうか…かすの時間は止まってなんかいなかったんだな。

僕はポケットにしまってあるプレゼントに手をかける。


「かす、ちょっといいか?」

「何も言わずに目を瞑ってほしい」


 僕はそっとかすに指輪を付ける。

痛いかも…とかも思ったけどこれが1番かすに似合うと思った。


「いいぞ…その…いらなかったら…捨ててくれ」

「たまにはキザな事するじゃん!

えへへ…ありがと…嬉しい」

「ちなみに…くすり指のはまだ?」

「それは…まだ待ってくれ…」


「まだって事は信じて良いんだよね…?」

「待て…それ以上は待ってくれ」


 僕は一度息を整えるために深呼吸をする。心臓の音がうるさすぎる…動揺しているのがバレてもおかしくないな。


「かす、僕はかすが好きだ。1年前の今日…僕は何度も何度も後悔した。恋なんて2度としないとも思うと同時に苦しい程愛おしくなった」

「かすと住むようになって…弱い一面もまだ知らなかった一面もたくさん見えてきた。簡単に好きなんて言葉を口にするつもりはないし…好かれようとも思ってなかった」


「それでも…かすだけは手放したくない。兄妹でも元カノでも何でもない…たった1人の女性として──かすが好きだ」

「あげられるものは僕の人生くらいしか無いし、価値なんて全然見出せないと思う。けど、これから先の人生…僕で良かった。間違ってなかったって必ず思わせて見せる…だからっ…」


「僕ともう一度付き合ってください」




「バカ……遅すぎるよ…」

 目から大粒の涙を流しながら僕に笑顔を向けてくる。


「価値がないなんて私も一緒だよ…はーくん1人じゃないよ。私もはーくん無しじゃダメなの…他の誰かじゃだめなの」

「もう…愛が重いって言っても話してあげないんだから…覚悟しててよね」


「こんな私でよければお願いします」



 12月25日

葉月とかすみ──止まっていた物語が再び動きはじめた。




────────────────────

【あとがき】


ここまで読んでくださりありがとうございました。

後に2人のその後を番外編という形で数話書かせていただきますが本編はここでおしまいです。

何度も何度も悩んだり、心理描写が雑になってしまい読みにくい部分が多くあったと思います。

書いてて楽しかったキャラはシオンですかね


新作小説も執筆中なので是非応援お願いいたします!!


【後輩で元カノな僕の妹】


よろしくお願いします!!!






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後輩で元カノな僕の妹 黒井しろくま @kuroi_shirokuma

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