後輩で元カノな僕の妹

黒井しろくま

第一話 兄妹なんて聞いてない!!


クリスマスのイルミネーションが色めく頃。

街のシンボルの大きな柊の木の前で僕たちは別れた。


どちらからともなくその場から去ると

僕の目頭はぐっと熱くなる。

頬に伝う涙が冬の風で冷たく感じる。


そして僕は家のベッドに潜り込む。

1年半の思い出が絶え間なく僕の脳を駆け巡る。

声を殺していても嗚咽がこぼれる。

締め付けられる心を騙すように僕は無理やり

眠りに着くのだった…。


翌日、僕は一階のリビングへと降りると父さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。

結局昨日はあまり眠れなかった。

眠気覚ましに僕も台所に行きお気に入りの

マグカップでコーヒーを作る。

「父さん、おはよ」

「起きたのか、おはよう」


コーヒーを啜りながらスマホをいじっていると父さんの様子がいつもと違うこと気づく。

どことなくそわそわとして僕の顔色を伺っているのだ。


「どうしたの?」

「あ…あのな…?父さん再婚しようと思うんだ」


僕の実の母さんは幼い頃に亡くなっていて

父さんは男手一つで僕を育ててくれた。


「葉月はどう思う」

「いいと思う。父さんが決めたなら僕は歓迎するよ」


父さんは「そうか…!」と安心したように

胸を撫で下ろす。


「それでな?お前より一個下の娘さんがいるんだ」

「大丈夫か…?」

「問題ないよ、家族が増えるんだ。

嬉しいことさ」

「3ヶ月後の4月からこの家に住むことになると思う。その時に改めて紹介するからな」


「分かった」と言い、僕は自室へと戻る。

部屋に戻るとまだまだ膿んでいる心を

落ち着かせるようにまた眠るのだった。



〜三ヶ月後〜


鮮やかな桜が舞う季節になった頃。

約束通り、今日は僕の家に家族が増える。

父さんから呼ばれてリビングへと向かう。


ドアを開けると30後半くらいのだろうか?

若々しい女の人が座っていた。


「葉月来たか」

「この人が今日からお前の母になる人だ。

自己紹介を」

「どうも…葉月と言います。

よろしくお願いします」


初対面で緊張をしており無愛想になってしまった。

嫌な奴だと思われただろうか…。


「初めまして〜。今日から家族になる、

来海ゆずと言います」


おっとりした口調でにこやかな人だな。

僕はペコリと頭を下げると父さんの横に

座る。


「ゆずさん、娘さんを…」

「そうですね!かすみーー」


かすみ…?

その名前に胸をチクリとさす痛みが走る。


ゆずさんに呼ばれ1人の女の子がリビングに

やってきた。

小柄で色白な美少女。

アイズブルーの瞳に透き通った白銀の髪。


「はじめまして!かすみです」

「かすみちゃん…!はじめまして今日から父になる来海弘樹と言います」


父さんとかすみは握手をしてかすみは

ゆずさんの隣に座る。

僕は少し体調が悪いと言い残して二階の自室へと戻ろうとした。


「葉月、かすみちゃんの部屋がお前の隣になるから案内してやりなさい」

「…分かった。かすみさん、おいで」


かすみは席を立ち僕の後ろをついて来る。

「ここだよ」と案内して部屋に入ろうとするとかすみは僕の袖をクイクイっと引っ張ってきた。


「部屋に行ってもいい?」

用件はなんとなくわかっていた。

「分かった、好きな時に来ていいよ」


かすみを部屋に招き僕はベッドに腰掛ける。

一階から二人分のコーヒーを入れてかすみに

差し出す。

一口飲んでホッと一息をつく。


「葉月くん…?」

「堅っ苦しいのはやめろ。正直戸惑っているんだ」


するとかすみは被っていた猫を捨てるように態度を変える。


「なんで!?はーくんがここにいるの!」

「それは僕のセリフだ!かすがいるなんて聞いてない!」

「私たち別れたのよ?その次は家族!?」

「そんなラノベみたいなこと私は許さないわ」

「僕だって会いたくて会ってるわけじゃないんだ」

「嫌かもしれないが我慢してくれよ」


会いたくて会ってるわけじゃないか……。


「そんな言い方しなくても…」

「すまない、僕の言い方が悪かった」


かすは俯いてスカートをキュッと握っていた。

僕はかすの頭を優しく撫でる。


「何よ…優しくしないでくれる?」

「もう私たち、別れたんだから」


「ふん…そんな事分かってる」

「悪魔でも兄弟、妹を慰めているだけだ」


「…ばかっ今更遅いのよ…」

そんな事痛いほど分かっている。

僕がいくら復縁を望んでいてもそれは叶わない。

僕たちは兄弟で僕は兄貴なのだから。


そういえば…付き合っている時もこんな場面があったな。

学校では生徒会に所属、部活ではエースで勉強も常に上位のかすに妬む奴は当然いた。


嫌がらせを受けても学校では笑顔でいたかすがいつも僕の前ではこうして泣いていたな。


完璧に見えても人なんだ。

今回に限っては僕の口が悪いが…。


「もう大丈夫よ…ありがとう」

「とにかく!詳しい事は後日決めましょ…」


かすが部屋から出ていくのを見送ろうとした時、

「かす…!」

「なに?」

「あ…えっと……」

「用がないなら行ってもいい?」


「…まどマギの映画見ないか?久しぶりに」

「…見る」

〜二時間後〜


「感動した……やっぱり杏子よね!」

「何を言っている?なぎさたんしか勝たん」

「はぁ!?杏子×さやかのシーンでしょ!」

「ふっ…確かに名シーンだがあの可愛さには勝てねぇな」


「相変わらずロリコンね」

「お前こそ王道カプが好きだな…!」

お互いの顔を見合わせているとおかしくなって僕達は笑った。

「あはははっ‼︎久しぶりに笑ったわ」

「僕もだよ」


EDまで見終えるとかすは部屋から出ていく。

「また後でね」

「あぁ…また後で」

ふりふりと手を振って別れる。


全く…懐かしいな、この感覚。

ヲタクで推しで喧嘩したり…デートはメイトやゲーセンだったり誕生日プレゼントはスケールフィギュアをあげたり。

そんな不器用な僕たちの付き合い方。


…思い出すだけ苦しいな。















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