34 犬の手入りませんか?



 大きな手で顔ごと頭を抱えて、ぐねぐねしてるノノイさん。


 本人としてはもう立ってることもままならないって感じなんだろうけど、キャラはさっきより立ってるし、見てる側としてはとっても楽しいので大丈夫。


 シュルカさんと一緒にガルドさんの背中から覗いて存分にニヨニヨさせてもらった。


「あ゛あぁもう! なんで私の周りにはこんなのばっかりなの!?」

「人が集まるのは、それだけお前が魅力的だということだ。まぁ、当然だな。それでこそオレが見初めた女だ、もっと誇ってもいいんだぞ?」

「アンタはちょっと黙ってなさい!」


 真正面から執拗に打ちのめしてくる厚かましい好意にノノイさんはガーッと吠える。ただ、背負ってるビジョンは威嚇してる子猫だから微笑ましさしかなかった。


「はぁ、はぁ……ふーっ……。いえ、私のことはどうでもいいわ。それよりも! アンタ、子供たちの安全はきちんと確保してきたんでしょうね?」


 大きく息を吐いて落ち着きを無理やり引き戻したノノイさんが、ガルドさんの鼻先にビッと指を突きつける。

 それに対してガルドさんは腕を組み、胡坐でドスンと音を立てながら座って大仰に頷いた。


「無論だ。オレは何もお前らが窮地に追いやられるのを待っていた訳ではない。子供らを狙った別動隊の無力化していたために遅れたのだ。

 オレとしては何を置いてもお前を優先したかった……が、子供を見捨てるような男はお前の夫に相応ふさしくない」


 ガルドさんが目を細めて言ってのけたのにノノイさんはフンッと鼻を鳴らした。


「当然でしょう? 子供くらい守れないでどうすんのよ。仮に私が絶体絶命だったとして、私のために子供見捨てるなんてあり得ないわ。子供も助けて、私も助ける。それくらいできるような男じゃなきゃ、こっちから願い下げよ。

 そもそも私は誰かに助けてもらわないと自分の身も守れない程、弱くないわ」


 毅然と、一本芯の通ったノノイさんの立ち姿に、ガルドさんはグッグッと低く喉を鳴らして笑い、何度も頷いた。


「そうだろうとも。そんな女だからこそ、お前はオレをものにする」

「フンッ! やれるもんならやってみなさい」


 牙を見せつけるように笑ったガルドさんに、ノノイさんも挑発的な笑みを上から被せるように返した。


 お互いに通じ合っちゃってる感じで二人だけの空間を作って燃え上がってるけど、余波でワタシたちまで黒焦げにするのは勘弁して欲しい。

 砂糖からの炎で上手にキャラメリゼされたワタシとシュルカさんは、お腹いっぱいって感じで互いに顔を見合わせた。


「やっぱりこういうときってご馳走様って言うべきッスかね?」

「いやどっちかっていうと、焼けちゃいました、じゃないですか?」

「なるほど、確かに上手に焼かれちまったッスからね。アタシたちも少しは美味しい想いがしたいもんスね~」

「ね~」


「しつこいわよ、アンタたち!」


 ノノイさんがぐりんとワタシたちの方に顔を向けて怖い視線を送ってくるのに、慌ててガルドさんの陰に引っ込んでやり過ごした。


「はぁ。まぁ、いいわ。とりあえず今はここを移動しないとまずいわ。場所が割れちゃったし、次の隠れ家を探さないと……。ああ、でもどうしよう。ここ以外で私が自由にできて隠れるのに最適な場所ってないのよね」


 ノノイさんが親指の爪を噛み締めて眉根にしわを寄せる。


 確かに、これだけ崩壊しちゃったら雨風もしのげそうにない。

 何より人目から逃れるのが目的なのに、これだけの騒動を起こしちゃったらすぐに周りの人も気づくだろう。そうしたら子供たちのこともバレる。


 それじゃあ元も子もないんだよね。


 ……あれ、そういえば……バハート以外の下手人はどうしたんだ?


 そう思って辺りを見渡すと、崩壊した元倉庫らしき建物のあちこちに気を失って倒れ伏している襲撃者の姿があった。


 誰も死んではいないみたいだ。


 おそらくガルドさんの仕業なんだろうけど、いつの間に……。

 あの一瞬で全員を叩き伏せて、バハートの喉を掴み上げたのか? それとも魔法?

 どっちにしてもなんて早業……ワタシでも見逃しちゃったね!


「まぁ、行き先は移動しながら見繕いましょう。シュルカ、子供たちを連れてきて」

「了解ッス!」


 馬鹿なことを考えてるうちにノノイさんの指揮の元、テキパキと事態は進んでた。

 ……別に除け者にされて寂しいとか思ってないもん!


「さて、アンタだけど」

「なんですか!? なんですか!?」


 ノノイさんの声に素早く反応して、足元でお座り待機した。


 そうですよね。ワタシがいなくちゃ始まんないですよね!

 特別ですよ? 仕方ないから言うこと聞いてあげます。


 尻尾を振ってるけど、これは命令を聞けるのが嬉しいとか、かまってもらえるのが嬉しいとか、そんなじゃないから!


 さぁさぁ、ワタシは何をすれば、


「邪魔にならないように大人しくしてなさい」

「…………くぅ~ん」


 四つ足のままとぼとぼ歩いて、ちょっと離れた所で膝を抱えた。


 尻尾が萎れて垂れちゃう……別に寂しくなんてないんだから!

 ……やっぱ嘘、この状況で手持ち無沙汰はちょっと悲しい。それに手伝えることがないってのが申し訳ない。


「はぁ~あ」


 勝手にため息が漏れてきた。

 まぁノノイさんが言うように、ワタシにできることなんてないから大人しく座ってよう。


 ……それにしても、ワタシはこれからどうしよう。

 ノノイさんたちはどうにかして隠れてやり過ごすのが目標みたいだけど、これにワタシもついて行っていいものか。


 この人たちと一緒に行動するのがいいのか、それとも別の道を探すのか。

 まぁ、街の現状が詳しく分かってない以上、余所者のワタシが単独っては死亡フラグだから一緒に行動するのが無難なんだけど。

 でも、確実に子供たちが狙われるのと一緒にワタシも狙われるんだよなぁ……見た目だけは幼女だし。


 考えなきゃいけないことが、いっぱい、だなぁ……。

 んん? なんだろ……色々、あったせいか、眠く、なって……。


「オ゛オォオォオオオ!!!」

「わっはぁ!?」


 忍び寄ってきた睡魔は、魔獣の咆哮みたいな声に吹き飛ばされていた。




      ☆      ☆      ☆




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