06

ぼやっとしている私に、真知さんが声をかける。


「さっきのが紅林作業長だよ。無愛想でしょ?」


「…はい。」


「でも珍しいね、作業長直々に来るなんて。」


確かに、珍しい。

大体、こういう取りに来る作業って下っ派がやることだもん。

大島さん、どうかしたのかな?


でもそれよりも、真知さんの言うとおり無愛想だったけど、それをカバーするほどかっこよくてドキドキしてしまった。

紅林作業長って、あの人だったんだぁ。


気になるのはあの無愛想具合。

私は人と会話をするとき、笑顔を心掛けている。

子供の頃、“可憐って名前なのに全然可憐じゃねーな”と男子にからかわれたのをきっかけに、女の子らしい仕草を意識してするようになった。

それがいつの間にか性格の一部のようになっていて、勝手に顔が笑っているみたい。

私が笑えば、大抵相手も表情を緩めてくれる。

つられてニッコリしてくれる人もいる。

それなのに、紅林さんはピクリとも表情が変わらなかった。

声は優しげだったけど。


笑った顔、見てみたいな。


そんな欲がむくむくとわき上がった。

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