堀川戎神社②


 

「商売してた?」

「してない。けど、この前、リベンジを誓ったの」


 友達と天満駅に降り立ち、大阪天満宮に向かう道を進み、大きな百均の先の道を右に曲がる。それなりに歩いて、高架下までたどり着いて、鳥居を確認する。「あっちの信号を渡ろうか」なんて言いながら、先日人の列ができていた歩道を歩いた。そのまま先日の列をなぞるように信号を渡る。鳥居の前に立ち、一礼をして、神域にお邪魔する。


「この前は、なんで行こうと思ったの?」


 手水舎で真希に聞かれた。


「お祭りだから?」


 清めた手を振って水分を取っていると、真希がハンカチを貸してくれた。


「人混みにつられたんだ」

「ううん、屋台」


 お礼を言って、ハンカチを返す。真希は「どういたしまして」と言って、ハンカチを脇に挟んだ。そして、手を清めはじめた。まさか待ってくれていたなんて。真希が手を清め、口を清めているのを見つめる。ハンカチで手をふく真希に、体が揺れてると指摘されるまで、クセが出ていることに気づかなかった。罰が悪いときや居心地が悪いときにでる揺れ症だ。ちなみにこのクセの名付け親は私だ。


「屋台か。商売繁盛。そっか。すごい、すごい。効果覿面」


 一人納得する真希に、私はその言葉の意味を考えた。

 ……私をカモ扱いした?


「バカにしてる?」

「してない」


 おちゃらけた様子もなければ、見下す感じでもない。ただの否定に、唇が弧を描いて固まった。


「そういうヤツだった」


 真希を悪者にした自分を、心の中で叱責した。


「ヤツ」

「人でした」


 真希の叱責も素直に受け入れ、頭を垂れた。

 そして、拝殿と向かい合える場所まで歩いて、二人並んで立ち止まる。

 人通りが少ないときだけにやる、お決まりの行事だ。

 境内を一望して、深呼吸をする。


「すごい、光に包まれてるみたい」


 視界を遮るものは何もなく、拝殿まで続く道が、照らされている。いや、境内すべてが天の柱で照らされている。飲み込む空気さえ、光で溢れている気がした。


「誰もいないね」

「うん。なんか、余計、奇跡的」


 体の中からキレイになる気がして、また深く息をした。


「今日、こんなに晴れてたんだね」

「もっと曇ってると思ってた」


 二人して感嘆して、その奇跡的な風景を目に焼きつけていた。どれくらい、そんな時間を過ごしていたのかは分からない。お兄さんが私たちの横をすり抜けるまで、ただじっと佇んでいた。お兄さんには、謝罪をこめてお辞儀した。


「参拝しよう!」

「そうだね」


 光に照らされながら、進む。真冬の射光に、心まで癒される。暖かい。寝転んでしまいたいくらいだ。陽気を味わうようにゆっくり進み、手を合わせる。背中に感じる温もりが、まるで神様にバックハグされてるみたいだ。なんて思うと、笑みがこぼれた。いつまでもここに居たい気持ちをグッと抑え、後ろで待っていたお兄さんと入れ替わる。もちろん、お辞儀を忘れたりはしない。

 そのまま二人で社務所に向かい、御朱印をお願いした。

 帰り際、視線を感じて、ふいに上を見上げる。


「あ! 戎様!」


 社殿の壁に、大きな戎さまのおめでたい飾りを見つけた。

 また、良い日が始まる予感がした。

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