第十八話 安定した普通の生活

 ――きっかけは、実家が悪徳霊感商法にはまったことだった。両親の給料・貯金だけでは飽き足らず、借金をしてまでつぎ込み、返済額は膨れ上がった。

 大人二馬力だけではどうにもならないところまできて、負債を返すためむりやりイメージビデオに出させられたことが芸能界デビューのきっかけだ。

 子供のころから今に至るまで、受けられる仕事は選ばずに受けた。

 稼いだお金は借金返済のために消えた。

 学校もほとんど通えていない。

 唯一自分のために使えたお金は、通信制大学の学費。

 いつしか借金完済と並行し、両親の生活を支えるのも飛鳥の仕事になっていた。

 体当たり演技もして、記録に残ってまで、自分はなにをしていたのか。

 わからなくなった。

 借金を完済したことをきっかけで、芸能界を引退した。

 泡を食った家族と縁をきるため、逃亡中。

 22歳。通信制大学卒業。職業はフリーター。

飛鳥日生子あすかひなこです。よろしくお願いします」

「採用!」

「採用!じゃねーんですよトンチキ家主が!」

 文貴の渾身のつっこみに雪野は笑顔を崩さない。むっとしたのは話終えたばかりの飛鳥だ。

「外野は黙っててくれない?」

「シェアハウスのメンバーを言うに事欠いて外野呼ばわりかよてめえは!」

「その汚い言葉遣い、年上に向かってどうなの?学生さん」

 ぐっとつまる。

 同い年だが、数ヶ月差で飛鳥の方が年上だった。

 彼女の言葉遣いもやや怪しいが。

「で、私たちの事情なんだけど」

 雪野は端的に説明していく。心霊現象があること。事故物件。ここに居ないメンバー、伊織のこと。

「――ありえない」

 黙ってすべてを聞いた後、吐き捨てるように一言。

「霊能力者?心霊現象?うさんくさい。私を住まわせないようにしようったってそうはいかないから」

 心霊現象を信じていない、というより嫌っている。

 滲み出ているのは憎悪。

「嫌なら住まなくてもいいんだぞ」

「住むわよ、人の話聞いてた!?」

 深呼吸深呼吸。口を開けばきれそうだ。

「私としては住んでもらって構わないけど?」

 なにをいう。

「俺は絶対反対ですね」

 相容れない人物との同居なんてまっぴらごめんだ。

「僕は一応、賛成かな」

 2対1。けれどここにはいないメンバーがいる。

「伊織さんはどう言うかな?」

 苦し紛れに言うもあっさりと。

「伊織さんが反対にまわっても半々ですね」

「は?インチキ人間のいうことなんか票になんて入らないから――家の中、案内して!」

 雪野はへらりと笑いながら、飛鳥を連れてリビングから去っていく。

 ――人の服と一緒に洗濯まわすの?同性でもありえない!

 廊下から聞こえるわめき声。頭が痛い。けれど文貴はたった一人でも反対票を投じた。

「身元引受け人は真弓さんな」

 目をぱちくりした真弓、溜息をつく文貴は、嵐のような新人を見送った。


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