第十一話 入居者面接

 真弓大我、25歳。理系の大学院を卒業後、技術職として某企業に入社。現在は社員寮で暮らしている――が。

「なんだってグレードダウンするような真似するんですか?」

 文貴は直球で質問を投げかけた。

 社員寮の寮費は格安で、平日は朝夕食、休日は三食ついている。部屋は個室。圧倒的に、一人暮らしをするよりもコスパがいい。

 なにが不満というのだろうか。

「あの、寮の大浴場がいやで」

 男子寮ゆえか、各部屋に風呂とトイレ、キッチンはついておらず、風呂は大浴場が1つ、トイレはフロアにトイレ兼洗面所スペースがあるのだとか。

 分からない。文貴には分からない。

 ただ黙って、昼食の野菜うどんをすする。

 ――訪ねてきた真弓を全員で迎え入れ、茶を出したあと、見えないところで雪野を問い詰めた。

「部屋は余ってるしいいでしょ?」

 あっけらかんとした回答に脱力する。せめて事前には言って欲しい。

「募集するのはいいですけど、内覧に来ることぐらいは教えてください」

 伊織の言うことも最もだ。彼女は休日ということもあり、すっぴんだった。

「いや、内覧に来てくださいとは一言も言ってないよ?地元の掲示板に出して、メッセージやりとりして、一度お話しましょうとは言ったけど」

つまり、雪野にとっても想定外だったと。

「……住所教えたわけではない、と?」

「うん。知らない人に住所教えるのは抵抗あるじゃん。女子メンバーいるんだし」

「じゃあなんで家に来たんですか」

「なんでだろ?」

 そしてなんでそんな謎人物を一人リビングに置いているのか。

 監視の意味も込めて、全員がリビングに集まって話をすることになり、今に至る。

 話を聞きながらごはんを食べようと言い出したのは雪野だった。

「まあうちは混浴の趣味はないから安心して!部屋の覗きも厳禁だし、プライバシーは守られるよ」

 雪野の発言に、真弓は明らかにほっとしたような顔をする。

 180センチ越えで大柄な体型だが、人畜無害そうな顔立ちしている。

 スクールカーストで言うと、身体は大きいのに気は小さくて、教室の端っこよりにいるタイプ。豹変するタイプと言われたら否定は出来ないが、体育会系というより文化系寄りに見受けられる。

 いざとなれば、自分が。

 多少なりとも組み合っていれば、雪野か伊織が通報してくれるだろう。

「シェアハウス入居希望は分かったけど、説明してくださいよ。なんでここ来れたんですか?住所教わってないですよね」

 リビングがしんとする。

「あ、掲示板サイトには住所は書かれてなかったんですけど、大まかな場所と、写真の画角からわかりました……」

 伊織と文貴が、雪野を見る。

 元凶はお前かよ。

「……ネットリテラシーって言葉知ってます?雪野さん」

「てへ」

「てへじゃないんですよ!」

 


 ――食卓には食後のお茶が並ぶ。

 雪野はネットの地元掲示板に出していたシェアハウス情報を修正し終え、スマホを置いた。

「大我くんは――」

「あ、真弓で、お願いします」

「じゃあ、真弓ちゃんは、ゴールデンウィーク中にでも引越し希望で、うちが事故物件なことも承知の上なわけね。2階は女子部屋、1階が男子部屋だから来るとなると部屋は文ちゃんの隣の和室になるけど、大丈夫?」

 すでにシェアハウスに来ることになっているようだ。

 ひとまず、危険人物ではない。ちょっと先走りがちというか、ずれているかもしれないけれど。

「はい、和室は全然大丈夫です」

「事故物件なことはいいんだな!?」

「うち、結構出ますよ」

 伊織も思わずといった具合に口を挟む。

 絶対気にするところが違う。

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